算数授業の「わからない」から、5人の先生の授業観を学ぶ

執筆者: 小谷宗

|

小谷宗(こたに・たかし)

1994年生まれ・教師歴7年目

田辺市立公立学校教諭

和歌山県で担任をして7年目となる小谷宗と申します。年齢は29歳。いよいよ来年度には30歳を迎えます。拙著「教壇に立つ20代のあなたに伝えたいこと」では、20代の悩みや葛藤をたくさん綴らせていただきました。授業で、最も悩んだと言っても過言ではなかったのは、子どもたちの「分からない」姿です。分からない結果、子どもたちは、時計を眺めたり、窓の外の空を見たり、私語を始めたりするのです。こちらとしては「分からないからこそ学びに向かってほしい」のですが「分からないからこそ離れていく」という理想とは正反対の姿にたくさん悩んだ20代であったと振り返ります。
そういった子どもたちに対して、「先生の話を聞きましょう」「友達の説明をしっかり聞きましょう」なんて教師の願いをストレートに伝える指示をしたところで、あまり大きな効果は得られません。「分からない」といった思いは複雑なのです。周りの雰囲気、教師と子どもの関係性、自分の中にある恥ずかしさなど、様々な要因が考えられます。
今回は、5人の先生の算数の著書から「分からない」についての考えを学びましたので、紹介したいと思います。

細水保宏先生は、教室に間違いやすい空気を作ることの大切さを述べられています。クラスで一番できそうな子が間違えてしまった時に、「できる子が間違えたのであれば、自分も間違えて大丈夫」や「もし自分が合っていたら、周りからすごいと思われる」と、間違いに対する捉えに変化が生まれるという例を挙げられていました。こういった場面は偶然起こることかもしれませんが、教師が意図的に間違いを取り扱うことで、子どもの間違いに対する捉えを変えていくこともできます。先生があえて間違ったり、間違いが恥ずかしくないという価値観が共有されるように4月当初から話をしたり、日々「間違えてもいいんだよ」と伝えたりすることで、子どもたちも安心して授業にのぞむことができるようになります。
算数好きの子どもを育てるための細水先生の至極の学習指導テクニックが詰まった一冊となっています。斬新な大きな取り組みではなく、本著に書いてあるような、日々のちょっとした関わり、小さな積み重ねの語りかけによって授業の雰囲気も大きく変わるはずです。

算数は、新しい知識や技能を自分たちで創り出す力をつける、創造力を育む教科です。教師が一方的に知識を与えてしまっては、子どもが新しい知識や技能を創り出すことはできません。ただ、自分の考えを発表しなければ創造力を養う授業はできません。そこで大きな壁となるのが、「間違えたら恥ずかしい」という思いです。加古先生は、間違えたら恥ずかしいと思う傾向は高学年だけでなく、低学年にも当てはまることであり、「間違いを恐れない子どもを育てていく必要がある」と述べられています。
加古先生が常に言っている言葉「自分の考えを発表しなければ、それが合っているのか、間違っているのか分からないよ。もし発言をして間違っていたとしても、そこで気付くことができるよ。」子どもの背中を押しながらも温かく包み込んでくれるようなこの言葉に、加古先生の困っている子供に対する思いが表れているように感じました。
若い先生の悩みに応えてくれるように、算数授業をもっとよくするためにできることを33個紹介してくださっている一冊になります。算数で子どもの表情を笑顔にしたい!と思っている先生には、今すぐ手に取ってほしいです。

森先生は、「わからないが飛び交う授業をする」ことの大切さを本著で述べられていました。先生のクラスでは、日々わからないということが大切だと教えているそうです。そうすることで、わからない子がちょっと偉そうになるような、普通ではあり得ない雰囲気も生まれるようです。分からなくて自信をなくして下を向く子どもの姿が思い浮かぶのですが、「わかりません!」と自信を持って全体に伝えられる子どもの姿・・・分からないが学びのスタート地点になっている森先生のクラスは、授業が楽しいのだろうなと思いました。
森先生は、「わかった人?」と聞かずに、「分からない人?」と尋ねるようにしています。「わかった人?」と聞くと、わかった人だけが手を挙げて、わかった人だけで進んでしまうので、できるだけ皆が手を挙げやすい、発言しやすい発問を工夫しているのだそうです。わかる人もわからない人も、クラス全員を巻き込んで、みんなで授業を作り上げていくためには、こういった発問にこだわっていく必要性を学びました。
子どもが算数好きになることを目指すのはもちろんですが、まず教師自身が算数を好きになれるような工夫が、本著にはたくさん載っています。

本著で森本先生は、「わかっていない子どもたちはなかなか「わからない」と言えません。だから、教師が代わりに尋ねてあげます」と述べられていました。子どもたち自身から、「先生!ここが分かりません」「〜さんの説明をもう一度聞きたいです」なんて言ってくれたら理想ですが、やはり分からないことを行動で表出するのは勇気がいるものです。
「先生はよく分からなかったんだけど、どうして〜をしたのですか?」と、分からない子どもの代わりに、代弁してあげることで、子どもたちの心のハードルは確かに下がっていきます。この説明だと全体に伝わっていないな、きっと〜さんはわかっていない表情をしているな、そう思った時には、教師の出番だと思って、「分からない役に徹する」ことも大切な役割であることを、本著で学びました。
21の場面について3つの判断を、合計63通りの授業での選択肢を示し、それについて森本先生がプラスαでコメントするような形で構成されています。授業が1パターンになってしまう、もっと選択肢を広げていきたいと思う先生にお勧めしたい1冊です。

授業は具体を知るに越したことはありません。本著は、全単元の授業の板書や発問などが掲載されているので、明日の授業作りに大活躍の一冊となっています。単元計画や板書計画を読むだけでも、十分すぎるくらい勉強になるのですが、紙版で本著を購入すると授業DVDがついてきます。紙面の板書計画と実際の授業を照らし合わせながら見ることで、先生方の細かな授業技術を学ぶことができます。
どれだけ算数名人の先生のクラスでも、もちろん「分からない」といった表情をしたり、その思いを表現したりする子どもは必ずいます。そんな時に個人的にはどんな声かけをしているのか、全体にはどんな働きかけをするのか、「分からない」子どもを決して見捨てずに、巻き込んで授業を構成していく具体的な姿が授業DVDを通して学ぶことができます。
明日の授業作りに困っている先生だけでなく、日々多忙で他の先生の授業が見られない先生や今の授業をアップデートしたいと思っている先生にもお勧めしたいシリーズです。