子ども理解を深めるために読んでおきたい書籍5選

執筆者: 樋口亜紀

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樋口亜紀

樋口亜紀(ひぐち・あき)

三重県四日市市立河原田小学校教諭。

1988年生まれ。名古屋女子大学卒業後、現職。幼稚園免許、保育士資格を保有。知的障害の兄の影響で幼い頃より「障害児教育」に興味をもち、今日まで学び続けている。現在は日本授業UD学会、日本LD学会所属。「特別支援教育」「発達心理学」を中心に学び、子ども理解について啓発を行っている。特別支援Co.や市内の特別支援教育研究協議会会長などを務めた。

早いもので1学期も終盤になりました。毎日、子どもたちと向き合いながら奮闘して過ごしていることと思います。しかし、向き合えば向き合うほど子どもたちの言動に対して、心が波立ったり、「ちゃんとさせないと」と焦ったりしてしまうこともあるのではないでしょうか。私も当然そのようなときがあります。しかし、そんなときこそ意識したいのが「子どもたち一人ひとりがもつ背景を考える」ことです。

今回「子ども理解を深めるために」というテーマで5冊選びました。選んだ本は、著者である先生方の日々の実践と子ども理解を深める視点について学べるものになっています。

私が学んだことが、これを読んでくださる先生方の子どもたちへの理解につながり、あたたかく笑顔で子どもたちと向き合えるための一助になれば幸いです。

川上康則先生の『教室マルトリートメント』(東洋館出版社、2022年)にも書かれているように,子どもたちにとって学校は「明日も通いたいと思える場」になっているか、「無理して通うしんどい場」になっていないだろうかと自問自答し、定期的に自分のクラスを俯瞰することはとても大切だと感じます。威圧的な姿勢で行う教育や子どもたちを突き放すような対応がなされている学級で、子どもたちがのびのびと学び、自分のよさや他者のよさを受け止めながら成長していくことは難しいのではないでしょうか。その学級で使われている言葉に決してあたたかさは帯びていないはずです。

しかし、私たち教師がどのような言葉で子どもたちと関わり、どのような言葉で子どもたちをつなげていくのかを意識することで、学級に包まれる雰囲気はあたたかなものへと変わってきます。これは、私が実際に本書『「かかわり言葉」でつなぐ学級づくり』を参考に実践してみて、肌で感じたことです。「大丈夫?」「そんな言い方よくないよ」「これやろうか?」「○○さんがこれやってくれたよ!」など「かかわり言葉」がたくさん溢れる学級になりました。

また青山先生の学級づくりへの姿勢も、大変勉強になりました。まずは、同じ学年でも発達段階が違うことを大前提に取組を行っていることです。当たり前のことだと感じるかもしれませんが、これを徹底して行っていくことは難しいものです。子どもたち一人一人を見取る力と根気強さがないとできません。

そしていつもあたたかい言葉で受け入れるのではなく、教師の価値観をきっちり見せ、枠組みを明確に示したり、偏った見方や受け取り方をしてしまっている子どもには、新たな視点がもてるような言葉かけを行ったり、子どもたちがこれからの行動を選択し、自分で行動できるようにしたりするなど特別支援教育でも大切にされる視点がたくさん散りばめられています。

何より学級のみならず、保護者・学年・校内と全てを視野に入れながら学級の子どもたちをチームで支えていけるようにコーディネートしていく取組を知ることができます。学ぶことが多い1冊です。

おすすめポイント

子どもたち一人一人が自分の居場所として、安心して穏やかに過ごすことができる場にするために私たちはどのような言葉を使い、子どもたちにどのような言葉を習得させていくのか、筑波大学附属小学校の青山由紀先生が発達段階に応じながらわかりやすく実践を紹介しています。子どもたちへの関わり方について考えたい先生におすすめです。

通級の指導を受けている児童生徒の数は、年々増加傾向にあります。しかし、残念ながら通級による指導を利用したくてもできていない子どもたちもたくさんいます。本書を監修された田中裕一先生は、通級指導担当教員の定数が完成途上であることも一つの大きな要因だが、教育関係者だけでなく、一般の方々の特別支援教育や通級指導というものに対する誤解があるように感じると論じています。     

もっと通級指導を利用できる子どもたちを増やしていくためには、周囲の方々の通級指導の意義や有効性の理解が不可欠です。特に通常の学級との連携が欠かせないという著者の熱い思いが詰まっていると感じます。例えば、通級指導の基本的な制度からその活用上の留意点が述べられていて、改めて通級指導というものがどのような制度であるかを確認することもできます。

実際の現場でも、通常学級の担任が「困った」状態になったとき、「通級につなげよう」と考えに至ることが多いです。このとき、その子どもたちの支援や指導を通級指導担当教員に任せたきりにしてしまい、通級で学んできたことを実際の通常学級でうまく活かしきれないという状況も散見されます。これでは、週に数回だけの通級指導では効果は得られません。通級の指導の時間に学んできたことを通常学級でも使えるように教員同士が連携を行い、環境設定していけるようにしていきたいと改めて考えさせられました。

また、本書の実践編では全国の校長先生が推薦した31の実践事例が載せられています。そこには、対象児童の様子、指導方法、指導時間、計画、ねらい、評価の観点、指導の様子等が記載されており、すぐに実践に役立つ構成となっています。

おすすめポイント

小・中学校の通級指導教室で行われている実践が写真とともに載せられていることや、どの困難さに重点を置いた取組なのかもわかるように構成されているので、とても読みやすいです。通級指導の経験が浅く、進め方に悩みをもたれている先生方には必見の本です。

ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンは、子どものなかでも、IQや読み書きのような「認知能力」よりも、やり抜く力・好奇心・自制心といった「非認知能力」の高い子どものほうが、将来挫折することなく成功する可能性が高いことを発見しました(本書、p.3)。「非認知能力」は、これからの未来を担うすべての子どもたちの心と体の成長に欠かせない能力と言えるでしょう。

本書は、子どもたちが大好きな体を使って遊ぶ「運動あそび」から「非認知能力」を育てていくことを目的に書かれています。とても効果があると感じると同時にそれ以外の様々な力もつくと考えます。

例えば、姿勢保持やボディーイメージの獲得、力加減、対人行動や学校の勉強の基礎となる土台などです。認知能力を育むための素地になるところですね。

特に、運動は脳にさまざまな感覚を送ることができます。走る・跳ぶ・投げる以外にも、笑う・寄り添う・支えるといった行為もすべて運動です。どこか身体の使い方が不器用だと感じられる子や対人関係でつまずいてしまう子たちにも、もってこいの活動がたくさん載せられています。つまり、支援の手立てとしても使えるものがたくさんあるのです。

現代の社会では、幼児期に当たり前に育まれていた力がどんどん育まれにくくなっています。きっとたくさんの子どもたちがこのような「運動あそび」を必要としているのではないでしょうか。「運動あそび」から大人側が子どもたちの「できた」「楽しい」「もっとやりたい」を引き出せていけたらなと思います。

教師という私の立場では、体育の時間や学級活動などで取り入れながら実践してみたいなと思います。「3〜5歳の」とありますが、十分に小学校の体育や特別支援学級の活動でも活用できるような運動あそびがたくさん紹介されていますし、どれも簡単に行うことができる運動ばかりなので、すぐに実践に移せるところがおすすめです。かわいいイラストで運動の流れが描かれていますし、運動のポイントや育まれる力も載せられているので、目的に合わせた運動あそびを行うことができ、とてもわかりやすいです。ぜひ、お手に取ってみてください。

おすすめポイント

本書は、さまざまな運動あそびを通して「挑戦する力」「考える力」「競争する力」「集中する力」「かかわる力」の五つの非認知能力の発達を促すことを目的として作られています。子どもと楽しみながら、つけたい力にアプローチしたい先生におすすめです。

非認知能力は数値化することはできません。昨今では、子どもたちが思いっきり遊ぶことができる場所の減少、公園にある遊具の変化、核家族化が進んでいます。また、「どうしたらいいのだろう」と思った瞬間に情報機器で検索すれば、自分が求める解決方法に近い答えが出てきてしまう環境も整っています。とても便利になった一方で、体を使うこと、調べること、人に聞いてみること、創意工夫することなど、これまで自然と行なってきた活動で育まれてきた数値化できない能力、つまりは非認知能力が育まれにくくなってきているのかもしれません。

本書は、アウトドアプロデューサーである著者が、これまでの教育とこれからの教育を結びつけながら非認知能力の重要性やアプローチについて、自然あそびの実践を踏まえてながら論じています。

幼児期から自然と関わることで、興味・関心の幅を広げることができ、さらに粘り強さ・問題発見能力・課題解決能力など、さまざまな力を伸ばしていけそうだと感じることができました。

どうしても小学校というのは、認知能力の活動に偏っているように感じます。しかし、低学年の子どもたちには、「具体物に触れ合いながら学ぶ」という視点を大切にしたいと私は考えています。実際に触れたり、体験したりすることで、認知能力を高めることができます。例えば算数では、量感覚が養われ、抽象的な数字になっても大小関係が分かるようになりますし、国語では、一つの言葉からさまざまなイメージを広げられることができます。これは、自分の体験と知識が結びついているからこそできることです。このように、認知能力を養うための素地になっているのが非認知能力と言えます。

大事なのは、乳幼児期から非認知能力を意識した活動を積み上げていくことです。保育所や幼稚園などもこの視点は欠かせないと感じます。内容は親子での自然あそびについて書かれた保護者向けの本として書かれていますが、小学校の教員である私の立場に置き換えて読むことで学びが高まる1冊だと感じました。


おすすめポイント

自然遊びから非認知能力を育むために、どのようにして子どもの活動と能力の育成をコーディネイトをしていくかを論じた本書は、教師がどのような授業づくりをしていくのかという視点と重なるところがあるのと同時に、非認知能力の育むための重要性を知ることができるので、とても参考になります。学校の中でどのように非認知能力を高めていけばいいのかを考えたい先生におすすめです。

2022年に10年ぶりに行われた文部科学省の調査(通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について) で、通常学級に在籍する小・中学生で「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた割合は8.8%でした。学び方がさまざまな子どもたちが数多くいることが認知されたと言えるのと同時に、現在の指導に対して苦しんでいる子どもたちの数とも言えるのではないでしょうか。

これまで可視化されず、ないものとされてきた「その子のもつ特性」や「個性の多様性」が可視化されるようになってきたのであれば、当然私たちは、それらに対応しながら教育を行っていかなくてはなりません。しかし、実際のところ私たちの見方・考え方は「昔の教育観」の域を出ることがまだまだ難しく、現代の子どもたちに対応しきれていません。そのためさまざまな「課題」として立ち現れているのが現状です。そのような中で、学校教育はさらに一人一人の学びの質が問われるようになり、個別最適化な学びと協働的学びを実現させながら自らの未来を創造する担い手を育むために邁進していかなくてはなりません。そのことからも特別な教育的支援を必要とする子だけでなく、すべての子にとってわかりやすく、学びやすいような教育をデザインしていく必要性が高まっています。

本書はその土壌とも言える人的環境のユニバーサルデザインについて言及されています。ユニバーサルデザイン化された授業を「よりわかりやすい授業」だとすれば、ユニバーサルデザイン化された人的環境は「秩序ある安心して過ごすことができる居心地がいいクラス・学級」と言えます。そのようなクラスにしていくために「教師の在り方」はどうあるべきか、特別な教育的支援を必要とする子どもたちをうまく周りの友達とつなげ、すべての子どもたちが笑顔で輝き続けるためにはどうすればよいのかなどが、事例や実践を挙げながらわかりやすく語られているため、イメージしながら読み進めることができます。

また、昨今の学校や子どもたちを取り巻く環境の変化についても書かれており、今の子どもたちのしんどさの背景を知ることができたり、すぐに取り入れられる実践も多く載っていたりするところも魅力的です。経験年数や立場に関係なく、学校教育に関わるすべての方に読んでいただきたい本です。

おすすめポイント

すべての子どもたちが笑顔で安心して学んでいくための環境づくりに必要な視点や教師の在り方について語られているところを、ぜひ読んでいただきたいです。子どもたちにとって安心して過ごせる学校・学級の教師の在り方について考えたいという先生におすすめです。