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教育の危機と現代の日本

ISBN: 9784491058504

渡邊 弘/著

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商品説明

教育の危機と現代の日本~人間教育からの改革~

本書の概要

いま、日本の教育は危機的状況にあるといわなければなりません。国の基盤となる教育が疎かになれば、国全体が衰退していくことになります。では、どこに根本的な問題があるのか。本書は、とくに①教育の歴史的問題、②教育思想の問題、とりわけ人間観(子ども観)、教育観の問題、③教職・教員養成の問題、④教育連携体制構築の問題、⑤生涯学習の問題の5点を取り上げ、人間教育の視点から論じたものです。

本書からわかること

本書では、現在の日本における教育の意識改革及びシステム改革を行なっていく前提となる根本的な問題点がどこにあるのかが理解され、また今後の改善策を探る手立てが得られます。

(以下、はじめにより抜粋)--------------------------------

はじめに
教育は、どの時代においても、本来学びたいという人間がいて、それをよくしたいと思い働きかける人間の関係性を基本としています。また、そうした人々がダイナミックに活動する主な場として家庭、学校、社会があります。さらに、その場において人々は、知識や技術や振る舞い方を互いに学び合い、その連続的活動の中で文化の伝達や価値の創造が行われていきます。つまり、私たち人類は、太古の昔からこうした営みを通して、発展してきたと考えられます。
しかし、この教育が、わが国では今、危機的状況にあると言わなければなりません。長い歴史の中で、さまざまな教育改革がなされてきました。それらは、ある意味国家にしろ、国民にしろ、まだ体力や進取の気性といったものがあったからここまで来られたともいえます。しかし、現代は周知の通り、国を支える人間(人材)それ自体が少子化で急激に減少しています。とくに教育や保育といった人間形成に携わりたいと考える若者も減少し、教員の質の問題も深刻化してきています。国は国で財政的に逼迫し国債を発行して借金を増やし教育に投資する予算も困難な状況になっています。また、教育の思想的側面から見れば、これまで政治、経済、軍事を優先して教育を考えてきたツケが一挙に噴出してきたといえます。教育は、経済や政治、軍事よりも国家繁栄に直結していないという考え方がどこかにあるのかもしれません。「教育は百年の計」といわれます。教育は、すぐに効果が表れるものではありません。教育を軽視しているという事は、すなわち学ぶ人間そのものを軽視してきているということです。福澤諭吉は、すでに一八七二(明治五)年に著した『学問のすすめ』の中で、「一身独立して一国独立する」という言葉を表しています。すなわち、国が独立して発展していくためには、まず一人一人が独立していかなければならないと主張し、それぞれの資質(「天資の発達を助る」)を尊重した教育をすでに訴えていました。これまでの日本の教育は、そもそも果たして一人一人の人間を尊重して教育を考えてきた歴史だったのでしょうか。これは重大な問題です。ちなみに、教育思想上、「かのごとくの教育」という言葉があります。これは、一見子どもの自主性や主体性を認めている「かのごとく」見えますが、実は最終的にはあらかじめ決められたレールの上を歩かされ、最終的にはそれに従うということになるという意味です。幼児教育から高等教育まで、今日本の教育は、表面的には「学習者中心」を唱えていますが、予算一つとっても教育を重視しているには程遠く世界的にも依然少なく、欧米は言うまでもなく、アジアの国々からも追い抜かれていく傾向があります。このままこれまで同様経済、政治、軍事優先して、国の基盤となる人間のための教育が疎かになれば、国全体が衰退していくことになります。少子化対策はもとより、幼児教育から高等教育まで一貫して、人間のための教育を再認識していく必要があります。では、どこに問題があるのでしょうか。本書の最大の目的は、その問題を吟味することにあります。これからのわが国の教育を考えていく上で、先ず私たちが行わなければならないのは、現状分析であり、そこにどのような問題があるかを共有し、それらをどう解決していかなければならないかを多面的・多角的視点から対話を通して知恵を出し合い創造していくことにあると考えます。
私は今回、具体的な問題として次の五点を提示しました。第一は、日本の教育の歴史的問題です。(第1章)とくに本論ではわが国の特徴ともいうべき二項対立的な歴史思考の問題を中心に考えていきます。第二は、人間観・子ども観に関する問題です。(第2章)この思想的問題は、ある意味最も重要かつ深刻な問題であると言わなければなりません。この問題についてはできるだけわかりやすく、丁寧に説明し、今後どのような考え方を模索していかなければならないかについても、第3章でこれからの人間観・教育観について考え方を提示し、さらに第4章では私たちに歴史上教育に対して警鐘を鳴らし続けてくれた思想家たちを取り上げて、その意義を探っていきたいと考えています。第三は、教職に関する問題です。(第5章)とくにこれまでの慣習的な教職観の問題と現在のわが国の教員養成をめぐる深刻な問題について述べていきます。そして第四は、さまざまな問題を抱える子どもたちのための教育連携体制の問題です。(第5章の1)とくにここでは、子育て支援問題、子ども虐待問題、いじめ問題、不登校問題、そして最近注目されているヤングケアラーの問題を取り上げます。そして第五は、わが国の生涯学習に関する問題です。(第5章の2)近年しばしばメディア等でも社会人の「学び直し」が注目されていますが、残念ながら世界に比較して、わが国では、大学教育の在り方も含めてかなり遅れており、未整備のままで今日まで来てしまった現実があります。これらについては本論で詳しく説明したいと思います。
ちなみに、私は現在、地方の小規模な大学・短大の学長を務めています。急激な少子化傾向の中で、学生をどのように集めていくか日々教職員と共に知恵を絞って学生に魅力のある大学、学生たちに選ばれる大学を目指して奮闘しています。そうした中で、いま最も頭を悩ましているのが、教員養成と保育者養成学科の学生減少の問題です。実は、いま高校生たちが進学を希望する際、最も人気のない学部・学科の一つが教育・保育分野となっています。教員採用試験でも、以前は小学校の場合で約六倍以上の試験倍率があったものが現在では全国的に下がっています。もちろん、教員採用の募集定員が少ない高校などは現在でも多少倍率を維持していますが、それでも以前に比べれば減少しています。さらに、教育や保育者の希望者が少なくなっているため、また教員の質を保証していくためか、都道府県によっては年齢制限を撤廃したり、教育委員会が教員養成の学部や学科に対して優秀な学生を送り込んでもらう目的で推薦制度(一次免除など)を設けたりしています。つまり、高校生たちが教員や保育者に魅力を感じなくなっているということです。その背景には、たとえば、年々新たに学習指導要領などに加えられるなどの仕事量の増加の問題、保護者対応の精神的負担、授業以外の仕事内容の難しさなどが考えられます。もちろん職業も多様化していることもあり、教員や保育者などの職業を選ばず、別な職業が多く選べるということも要因としてはあるかと思いますが、早急に働き方改革を行っていかなければ、子どもたちを教える立場の人間が少なくなると同時に質の問題にもなります。
今こそ、本気で教育からの社会変革を行っていかなければ、わが国はほかの国々から一層引き離されるどころか、国自体が弱体化し続けていくのではないかと懸念します。以上のような考えから、今回あえてこの書を出版し、読者の方々と問題を共有し解決策を探っていきたいと切に願っています。
二〇二五年一月一日         作新学院大学 学長 渡邊 弘