授業を伝える「ドキュメンテーション映像」の大切さ

授業を伝える「ドキュメンテーション映像」の大切さ - 東洋館出版社

前回お伝えした「ドキュメンテーション映像の制作と公開」 今回はその意味と、「制作」についてアプリケーションの使い方なども含めて 特に詳しく山内先生から教えていただきます。

これまでお伝えしてきた「大人に伝える」において、僕に大きな影響を与えてくれたのが、渡辺裕樹さん(元昭島市立つつじが丘小学校図工専科教諭/現・とをが アトリエ担当)です。 僕がまだ図工の先生になる前から、渡辺さんは「めがね隊」という活動を展開していました。

めがね隊とは、2012年に、小学校とNPO法人CANVASが手を組んでスタートした「小学校を新しいめがねで覗いてみよう」というプロジェクトです。 これからの学校は、どんな情報を公開・発信し、そして共有していくことができるのか。学校を見るための新しいめがね(視点)を考え、実践し、提案していくものです。

僕がまだ大学職員だった2012年、当時一緒に仕事をしていたNPO法人CANVASを通じて、渡辺さんと出会い、この「めがね隊プロジェクト」に参加しました。この舞台は、当時渡辺さんが勤務していた昭島市の小学校です。

めがね隊は、学校外のメンバーで構成され、学校の中に入り、授業中に子どもが発した言葉や、気づいたことをメモにとったり、カメラで静止画を撮影し、発信できる形に編集していきました。当時参加しためがね隊メンバーは、大学生や社会人など様々。

この経験が本当に面白かったのです。渡辺さんの図工の授業は、子どもたちの様子も含め、全てが新鮮で、驚きと感動でいっぱいでした。この時は、この後自分が同じ図工の先生になるなんて、全く想像もしていなかったのですが、僕の図工の先生としての姿勢は、この渡辺さんから学びました。図工の価値、プロセスの大切さ、ドキュメンテーションの重要性や効果など、今もなお大切にしているものはこの時に体感させてもらったものです。2年後、僕は渡辺さんと同じ図工専科として公立小に就くことになり、必死に彼の言葉や実践を思い出して、真似をし、図工の先生としてやってきたのでした。感謝してもしきれませんし、これからもずっと追いかけていきたい憧れの存在です。

そんな経験を経て、2014年から、僕も自分の学校でドキュメンテーション映像制作の仕組みづくりに取り掛かりました。最初、授業に外部の人が入る許可をとることは、簡単なことではありませんでした。

渡辺さんの学校での実践とあわせて、僕自身が写真を撮り、編集し、映像を見せて、保護者から感想を取る、という小さな実践を積み重ね、管理職に説明をし許可を得ることができました。そうして2015年より自分の学校でも、「めがね隊」の活動を実施できるようになったのです。

めがね隊レポート

めがね隊プロジェクトのスタート時は、ドキュメンテーション映像の上映のみならず、メンバーが学校の中に入って見えたことや、発信したいことから考えていくチームプロジェクトでした。ただ、僕はそこまで手が回らず、2016年度以降はプロジェクトではなく、「ドキュメンテーション映像制作のための撮影者募集」という形で企画を進行しました。

最初のメンバー(カメラマン)は、知り合いに直に声をかけ集めました。2016年以降は保護者にも協力してもらえるようPTAとも組んで体制をつくりました。前回お伝えした「大人の図工の授業」などで告知すると、喜んで手を挙げてくださる方がたくさんいらっしゃいました。

僕が授業の中で、自分で撮ることも不可能ではありません。しかし、先生ではない外部の人がカメラを携えて授業に入り、違う“めがね(視点)”で授業を切り取ることに価値があるのです。カメラマンとして授業に入って下さった方との、授業後の対話の時間はとても有意義でした。僕だけでは捉えられない視点や感想をたくさんいただけて授業のアップデートにも繋がりました。

子どもたちにとっても価値があります。僕1人では見つけられない、子どもの小さな発明や発見を、外部のカメラマンがみつけてくれるのです。「これ、すごいね。」と、先生ではない大人からフィードバックを受ける経験は、簡単につくれるものではありません。メンバーは毎回変わり、様々な大人が図工室に来てくれます。親、先生、習い事の先生ぐらいしか大人に出会いにくい現代において、特別授業ではなく、なんとなく、自然に、面白い大人に出会える場所に、図工室がなっていたのです。

「あれ?今日は山内先生ひとりなの?」

本来、先生1人が当たり前の授業のはずなのに、カメラマンがいないとこんな風に言われてしまうこともありました。なんとも面白いことです。それほど子どもたちにとって、貴重な存在になっていたのだと思います。

撮影後は、写真を厳選してもらう作業をお願いし、学校のPCにデータを移行して完了です。

動画編集は自分で行っていました。編集ソフトはAppleのiMovie。写真を選ぶ作業が一番大変なので、前段でカメラマンさんに予め少ない枚数に選んでもらうと編集作業は楽になります。選んでいた静止画を取り込み、映像に合わせ子どもの言葉を添え、BGMを加えたら完成です。慣れてくれば1映像あたり30分もかからずに編集作業は終えられます。映像は凝りはじめたら、終わりがありません。最低限の作業でも、十分伝わる映像をつくることができます。あえて動画ではなくて、静止画にしていたのも編集作業をできるだけ簡単にするためでした。作品展に上映する前には、担任の先生に児童が全員映っているかチェックもしてもらいました。

iMovieをつかってつくった映像の一例がこちらです。

これは、2015年に渡辺さんと一緒に企画して、「ワークショップコレクション in シブヤ」に出展したワークショップのドキュメンテーション映像です。

2022年現在はカメラもアプリも進化して、さらに簡単に美しく撮影と編集をする事が可能になっています。

iPhone13以降のカメラアプリでシネマティックモードを選択すると、奥行き感のある美しい動画が撮れます。3〜5秒程度の短い動画を、写真を撮るように撮影しておくのがおすすめです。後はアプリを使うと簡単に編集してくれます。

僕のおすすめのアプリは

LightCut

Quick

の2種類です。

どちらもAI編集機能があり、挿入する動画(写真)だけ選択すれば、あとは自動的にBGMもついたかっこいい動画をつくってくれる優れものです。このアプリを授業で使えば、片付けをしている間に動画が完成してしまいます。片付けが終わった後、出来上がった動画をみんなで鑑賞し、振り返りをして授業を終える、というような簡易的なリアルタイムドキュメンテーションの実施も可能です。

作品(成果)だけで判断されることのないよう、その過程にスポットライトをあてるのは、とても効果的な方法です。今後一層、映像での記録は当たり前になっていきそうです。

さて、これまで、図工の学びの価値を「子どもに伝える」「大人に伝える」ための「編む」をテーマに進めてきました。授業と授業を編む、授業と生活を編む、子どもと家庭を編む、授業と大人を編む、学校と外部を編む……と、これまで分断されていたモノゴトを統合的に捉えていくことで、これまでに気づけなかった価値をつくれるのではないかと僕は思っています。