[座談会・後編]新年度に考えたい、これからの「板書」活用法  『世界が注目!? 古くて新しい「板書」の世界』

執筆者: 沼田拓弥

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「新年度に考えたい、これからの「板書」活用法」後編。 今回は、小学校・中学校ともに経験のある槙原先生と、日本の板書研究を行うタンさんのお話を中心に板書を考えていきます。世界が注目し、「Bansho」という言葉で通じるという日本の板書。なぜ日本の板書が魅力的に映るのか? お二人の話から板書の意義が分かるはず。
今年1年間の授業づくりに役立つ内容が見つかること、間違いなし! ぜひ、最後までお読みください。

座談会出席者(写真上段左から)
沼田拓弥 東京都・小学校教員。『「立体型板書」の国語授業:10のバリエーション』(小社)の出版を皮切りに、板書を軸とする国語授業づくりを提案している。

槙原宏樹私立中学校教員。小学校教員を11年つとめ、現在は中学校で国語を教える。『子どもに「問い」と「気付き」がうまれる「?型板書」の国語授業』(小社)で板書で思考を刺激する国語授業づくりを提案している。小・中を両方とも経験して気が付いたことがあるという。

シャーリー・タン(Shirley Tan)オランダ・ウィンデスハイム応用科学大学研究員。名古屋大学授業研究国際センター研究員。博士(教育学)。マレーシア国民大学修了後、国費外国人留学生制度(文部科学省)のもと、名古屋大学にて日本の「板書」を調査・研究し、博士号(教育学)取得。現在は世界各国の授業研究の在り方や「板書」などについて研究している。
「日本の板書は世界が注目している」というその理由とは……?

遊免大輝大阪府・小学校教員。「立体型板書」研究会事務局長を務める。座談会では聞き役として、さまざまな話題を引き出した。

久村忠司熊本県・小学校教員。教員1年目となる昨年度、「立体型板書」に取り組む。

藤井悦子 滋賀県・小学校教員。ベテラン教員ながら、数年前に「立体型板書」に出会い、取り入れ始める。

沼田先生:槙原先生は小・中両方の経験がありますが、板書の使い方の面で違いは感じますか?

槙原先生:教室での共有物として、またある種の学習の成果物として、さらに学びを発展させるきっかけとしての板書だという考え方が根本にありますので、本質的には変わらないと思っています。
あえて言うなら、ノートとの連動を中学校の方が意識しないで済むと思います。子どもにとって「ノートは自分でつくっていくもの」という意識になれば、個人の学びの起点だったり、学んだことを再構成して次につなげていったりするものとして扱えるので、その点の自由度が高まるように感じます。
あとは、板書をメタ認知を促すためにも使っています。例えば、「今回の板書を見て、今後大切にしたい『読み方』を振り返ってみよう」と、板書自体を学習材にして振り返りを行うことがあります。
それから小学校で板書するときよりも、あえてスカスカにしていることがあるかもしれません。あえて空所にすることで、子どもが自力で考えられる場所を残そうとしている意識もあるような気がします。

沼田先生:なるほど。どのような場として板書を使っていくかが大事だということですね。

槙原先生:小学校でも中学校でも欠かせないのが付けたい力の焦点化ですよね。教科内容、つまりどのようにして読み方を身に付けて、それを転移させていくのか、その焦点化がキーになると思います。文章を細かく見ていけば、特徴や教えたいことはたくさん出てくるんですが、そこをあえて、「この文章の特性はこうで、だからこの読み方を身に付けさせるのに最適なんだ」ときっぱりと焦点化して授業をつくっていくことが板書を考える上でも大切だと思います。

沼田先生:国語が好きであればあるほど、いろんな授業パターンが思い浮かんじゃいますよね(笑)。

槙原先生:そうなんですよ(笑)。教師自身も教材分析をしていくと、自分自身の読みができあがってしまうし、それを伝達したくなってしまう。そこをどのくらい子どもとともに読みを創っていこうという意識になれるかが、小でも中でも同じくらい課題だと思います。

沼田先生:続いて、タンさんのお話を伺っていきたいと思います。タンさんがそもそも日本の板書を研究しようと思ったきっかけはなんでしょうか。

タンさん:きっかけは、文部科学省から奨学金を得て、名古屋大学の柴田好章先生の研究室に所属して参観した日本の授業風景ですね。
最初の授業観察で、板書の字が整理されていて、スムーズに流れていることにショックを受けました。 
また、初めて研究授業を観察したときに、こう思ったこともあります。「研究授業なんだから、先生たちもいい板書を考えてやっているんじゃない?」って(笑)。でも、それは勘違いでした。日本では、普段の授業から板書がよく考えてつくられていました。
日本の先生たちにとってはごく普通で当たり前のことのように思える「板書」でも、外からの視点をもつ私が見るとさまざまな発見がありました。
話を聞いていて思ったことは、「共有」と言っても、先生が共有したいと思ったことを共有することと、子どもが話し合ったことを共有することは別ものだということです。私が母国やほかの国で見てきたときには、先生が準備したものを共有したいという気持ちの方が強かったように思います。なので、同じ共有したいという気持ちでも、日本の場合は視点が違うと感じています。そこが一番魅力的だと思っています。

沼田先生:なるほど。世界でも、板書はよく使われるんですか?

タンさん:写真を共有しますね。
まずはオランダの小学校の教室(画像➀)です。スクリーンの横にいるのが先生ですね。
黒板ではなく、ホワイトボードです。しかも小さい。
それから、これはスイスの教室(画像➁)です。

➀オランダの教室風景
➁スイスの教室風景

タンさん:黒板なんですが、真ん中で開閉できる折りたたみ型のもので、サイズは結構小さいですね。
これはマレーシアの教室(画像③)。ホワイトボードなんですが、あんまり活用されていませんでした。
それから、最近の出張で見たセネガルの授業の様子(画像④)です。中学校の数学の授業ですが、先生がたくさん書いていて、まさに子どもの声を背中で聞くという状況でした。
こういった環境や使い方が一般的なので、いま世界中の先生方は板書に興味を持ち始めていて、いろんな本が出てきています。
例えば、この本は『Bansho』(画像⑤)

③マレーシアの教室風景
④セネガルの教室風景
⑤”Bansho”を冠した書籍も登場

一同:え~!

タンさん: 「Bansho」という言葉も知られていますし、「Board writing」でも知られています。
海外で板書を扱った文献では、ほとんどが算数や数学で使われている板書について書かれています。外国の先生の多くは、板書と言えば数学と思っています。でも日本では国語でも理科でも社会でも板書を使っているので、その点でも驚きがあります。
それから、大体の海外の先生は、日本がまだ黒板を使っていることにショックを覚えます(笑)。日本は技術的に進んでいる国だと認識されています。なので、黒板がまだ教室で使われていると言うと、「えー」と反応しますよ。

沼田先生:古いということですか?

タンさん:そうですね。でも、黒板は古いんですが、板書は古くありません。
海外の先生に日本の板書を見せると、「私の黒板の使い方とは全く違いますね」という反応をもらいます。

沼田先生:その「違う」というのは、よいという意味ですか?

タンさん:そうです。板書は知識伝達ツールとして黒板を使うという概念を乗り越えています。そのことが、海外から見て、よいと感じるんでしょうね。
いま、海外の先生方は、板書とICTの活用をつなげる方法を知りたがっています。2つを組み合わせて、どう知識を構築していけばいいのかが課題ですね。

槙原先生:私はハイブリッド型で授業をしています。ホワイトボードにプロジェクターで投影しつつ、ペンで書く行為と組み合わせて使っています。リズムをつけて進めたいところはICT、思考のプロセスはペンで書き込むなど、組み合わせて進めることができる。
電子だと、前の時間の板書を残せるので、次の時間ではそこに書き加えることもできる。投影するものに書き加えたり、変更を加えたり、さらに広げたりすることができるので、ICTを生かしたら、板書の機能はさらに拡張していくと思います。

遊免先生:教室環境も影響が大きそうですよね。例えば、教室の壁の全面がホワイトボードというのもおもしろそうです。

槙原先生:教室環境に力を入れている学校はそのようなつくりになっていることが多いですよね。

槙原先生:そうだと思います。単純に全面ホワイトボードになっただけでは意味がなくて、子どもが表現したくなる必要がありますよね。授業の中で、共有するために図式化したり、みんなで共有する中で気づきが生まれたりという経験的な学びをつくることが重要だと思います。

沼田先生:目的とツールが合致したときに初めて意味が生まれて、それがないとどんな環境でもただのお飾りになってしまうということですね。それこそ、いまわれわれの手元にあるICTツールも同じですね。

沼田先生:今日はさまざまな立場の先生方に集まっていただきました。それぞれの実践や経験、気づきを比べることで、共通する部分が見えてきたように思います。私たち自身も、座談会を通して、共有化をはかれたのではないでしょうか。また、言語化して話していくうちに、新たに気づいたことも出てきて、とても新鮮でしたね。
今日、ここで共有したことをまたそれぞれ持ち帰って、今年1年、改めてよりよい実践、研究を積み重ねていきたいですね。

〈参考文献〉

*1 桂聖(2011)『国語授業のユニバーサルデザイン』東洋館出版社

槙原宏樹(2021)『子どもに「問い」と「気付き」がうまれる「?型板書」の国語授業』東洋館出版社

沼田拓弥(2020)『「立体型板書」の国語授業』東洋館出版社

沼田拓弥(2021)『「立体型板書」でつくる国語の授業 文学』東洋館出版社

沼田拓弥(2021)『「立体型板書」でつくる国語の授業 説明文』東洋館出版社

沼田拓弥(2022)『書かない板書』東洋館出版社

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