「確認読み」と「解釈読み」をつなげる板書

「確認読み」と「解釈読み」をつなげる板書

教材: 「スーホの白い馬」 (光村図書2年/全14時間)

実践者: 久村 忠司先生 (熊本県・公立小学校)

本時のねらい: ①場面の様子に着目して、登場人物の行動を具体的に想像しながら読むことができる。
②文章を読んで感じたことや分かったこと(主にプラスかマイナスか)、心動かされた場面について共有することができる。

沼田先生:Q:今回の実践は、第9回のWebマガジンでも少し紹介されていた実践ですね。より詳しく話を聞けることが楽しみです。今回の実践は、2年生の最後の単元として取り組まれたものですね。単元を考えるにあたって、久村先生の中でどのような問題意識があったのですか?

久村先生:A:そう言ってもらえて光栄です。本実践の問題意識は、「物語の設定などの基本的な内容を把握する読み」と「物語の旨味を解釈する読み」との間を行き来する授業をつくることにありました。 2年生の後半になった頃、読みが得意な子どもとそうではない子どもとの間に大きな差が生まれていたことに気が付きました。子どもによっては、学習したにもかかわらず、単元テストの結果に全く現れていない実態があったんです。「授業中は、あんなに盛り上がっていたのに、どうしてだろう……」と感じていました。しかし、冷静になって自身の授業を省みた時、答えは明らかでした。それは、「確認読み」の授業と「解釈読み」の授業を切り分けていたことが原因でした。大げさに言うと、物語の旨味を解釈する授業は、その読みだけで45分間使っていました。恐らく読みが苦手な子どもからすると、「すごく楽しかったけれど、結局、何が何だかよく分からなかったなぁ……」という感じだったのでしょう。これでは、授業が楽しくても、子どもの力にならないと思いました。今回の実践は、そんな私の課題を改善したくて、「確認読みと解釈読みを行き来する授業づくり」を考えました。

学習内容
1 この物語は、ハッピーな話か、悲しい話かを考える。
2 あらすじクイズをする。
3 スーホはどんな人かを考える。
4 おおかみが襲ってきた時のスーホと白馬の様子について考える。
5 殿様はどんな人か考える。
6 殿様に白馬を取り上げられた時のスーホの気持ちを考える。
7 殿様とスーホ、どちらの方が白馬への思いが強いかを考える。
8 白馬はなぜ、スーホのところに戻ってきたのかを考える。
9 白馬の夢を見たスーホの気持ちはプラスかマイナスかを考える。
10 この物語は、ハッピーエンドか、バッドエンドかを考える。
11 1番感動した場面はどこか考える。
12 「かんどうポイント」を伝え合う文を書く。
13
14 「かんどうポイント」を伝え合う。
第1時の板書写真
第2時の板書写真

誰もが通る「国語科授業の悩み」に挑む
今回、久村先生が経験した悩みは、私も同じように経験したことがあります。授業は盛り上がったのに、子どもたちの力になっていなかった。国語授業において同じような経験をしたことのある先生も多いのではないでしょうか。なぜ、このような状態になってしまうのでしょうか。その要因の一つは、文章の構造と内容の乖離にあります。文章全体の大まかな構造と内容(各場面の出来事等)がつなげられるような「読みの耕し」が必要です。この二つのつながりを意識しながら、話し合い活動を行うことができれば、その場の雰囲気にただ身を委ねるだけの話し合い活動で終わるのではなく、次の時間の読みへとつながる「蓄積の読み」へと向かうことができます。

沼田先生:Q:なるほど。そのような課題を乗り越えるために考えられた実践だったのですね。単元計画を見ると登場人物にフォーカスしつつ、いろいろな角度から光を当てているように感じました。毎時間の発問づくりで意識したことはありますか?

久村先生:A:子どもたちの「だったら、これも!」という姿を引き出すために、支援の量を徐々に減らすイメージで発問を組み立てました。 最初は一問一答形式でもいいので、一つ一つ丁寧に確認しました。私の認識では、「ちょっと丁寧過ぎるかな」と思うくらいやっていました。そうすると、次第に子どもたちが解釈に向けて動き出します。
例えば、第3時では、スーホと白馬の関係について考えましたが、最初は「スーホや白馬については、何か書いてあった?」「それはどこに書いてある?」など、クローズな発問を重ねて物語の設定を確認しています。

第3時の板書写真

すると、子どもたちから「2人の同じところを見つけたよ!」という声が聞こえました。これが冒頭で述べた「だったら、これも!」に当たる部分です。ここからは、問い返し発問や「なんで?」などのオープンな発問で内容を深めていき、問いを連鎖させていきました。あとは、「いってらっしゃい!」と子どもたちに読みの主導権を委ねました。
今回は、子どもたちの実態と自身の授業づくりの反省を生かして、このように確認読みから引き出された「問い」を連鎖させたり、広げたりすることをイメージして単元を計画しました。立体型板書は、子どもたちの「気付き」がたくさん生まれるため、その「問い」を生み出すのにとても効果的だったと思います。

「確認読み」の情報が新たな発見につながる
「確認読み」の段階では、久村先生の実践のように、まずは丁寧に言葉を整理することが大切です。板書に物語のキーワードが散りばめられると、子どもたちはそれらの言葉を頼りに話すことができます。同じ言葉を見ながら、考えを共有する時間と空間が生まれます。これこそ、板書が果たす学習ツールとしての大きな役割です。 「確認読み」を通して、このような「共通の言葉」が生まれ、その言葉をベースにしながら話せば、「あっ! 同じ言葉が出てきた!」とか「反対になっている!」といった気付きへとつながります。

沼田先生:Q:「確認読み」から「解釈読み」へとつながる授業ですね。授業にこのようなつながりをもたせることは、全員の学びを保証する上でとても大切な視点ですね。では、その先の「解釈読み」である第5時から第7時の授業について詳しく教えてください。

久村先生:

第5時の板書写真
第6時の板書写真
第7時の板書写真

A:まず、一連の流れは「殿様とスーホは、どちらも白馬への強い思いがあるけれど、2人の思いの質は全然違う点」を見出すことを意図したものでした。この切り口は、『授業UDを目指す「全時間授業パッケージ」国語 2年』(東洋館出版社)を参考にしたものです。ぜひ、子どもたちにもこの読みを実感して欲しいと思いました。しかし、前述した通り「確認読み」に課題がある私の学級では、もう一歩手立てが必要だと感じました。そこで、第5・6・7時の流れを考えました。
第5時では、人物相関図型を用いて、殿様を中心にしながら、丁寧過ぎるくらいに「スーホと白馬の関係」を確認しました。第6時では、対比型を用いて、スーホの気持ちを殿様と比べながら確認しています。本来、ここでスーホと殿様を比較する必要はないかもしれませんが、この比較により、スーホと殿様の気持ちが正反対であることを見出すことができました。ここまで来ると、子どもたちは「2人(スーホと殿様)の白馬への思いも違っているのではないか?」と動き始めます。先程述べた「だったら、これも!」に当たる姿です。この第5、6時の流れと立体型板書の連続使用が第7時では大きく役立ち、ねらい通り、いえ、ねらいを超えた子どもの姿を引き出すことができました。

シンプルな問いなのに奥深い読みが生まれる
「蓄積の読み」は、確認読みの質を向上させます。例えば、久村先生の学級の場合、第7時までの授業を経験していますので、第8時以降、「お気に入りの登場人物は?」や「スーホと殿様の違いは?」と問えば、子どもたちは次々に語り出すくらいまで成長しているはずです。 このように、シンプルな問いであっても、子どもたちの語りの質は徐々に高まってきます。これが「蓄積の読み」の強みです。また、「確認読み」から「解釈読み」へのつながりは、単元計画の中におけるつながり(広い視野)と45分間の授業内におけるつながり(狭い視野)の2つがあることも意識してつくるとより効果的です。

沼田先生:Q:第1時と第9時のつながりも興味深いですね。第1時では「ハッピーか悲しいか」の2択で作品の印象を広げた内容でしたが、第9時では「悲しさ」の質について深まりが生まれているように感じました。この2時間の子どもたちの様子の違いについて詳しく教えてください。

久村先生:

第9時の板書写真

A:そこは沼田先生のおっしゃったように私も同感です。子どもたちの興味深い読みの姿に出会うことができました。第1時では、「悲しい物語だ……」「泣いちゃう……」という声がとても多かったのを覚えています。この反応は、読みに難しさがある子どもであれば尚更でした。第1時では、少し強引に「でもハッピーな部分もあったよね?」と子どもたちに問いかけたほど、子どもたちの物語に対しての印象は「悲しいイメージ」に傾いていたように思います。
しかし、第2時、第3時……と授業を重ねていく度に子どもたちは悩み始めました。それは、白馬が亡くなった後、スーホが馬頭琴を作る場面では、スーホと白馬がずっと一緒に居ることができる「温かみ」を感じることができたからです。「白馬が亡くなったことは悲しいけれど、クライマックスは温かみも含んでいること」を知り、何とも言えない複雑さを感じたのだと思います。
第9時では、最終的に、「この物語は何エンドか、はっきり言えないけれど、ただ悲しいだけの物語ではない」ということを子どもたちが結論付けました。同じ対比型板書なのに、第1時と第9時では、全く違う反応を見ることができました。

子どもの声がつながると作品の見え方が変わる
はっきりと言葉で表現できない部分があるからこそ、友だちと語り合うおもしろさがあります。これだけ様々な読後感をもたらす作品をあえて一言のシンプルな言葉で表現することによって、交流は活性化します。それは、「なぜ、相手がその言葉を用いて表現したのか」を詳しく知りたくなるからです。そして、語り合う中で、自分と相手の解釈の共通点や相違点が明らかになることで自分の読みをより強固なものにしたり、新たな作品の見え方を獲得したりするのです。

沼田先生:Q:では、最後になりますが、単元を通した子どもたちの学びの姿や成長をどのようなところに感じましたか? 子どもたちが「かんどうポイント」をどんなところに焦点化して表現していたのかも教えてください。

久村先生:A:子どもたちなりに「言葉におけるこだわり」を見つけていた点が1番大きな学びの姿だと感じました。最初は、『スーホの白い馬』は、子どもたちにとって「ただ悲しいだけの物語」であったと思います。しかし、最後の「かんどうポイント」を見つける授業では、「これからもずっと一緒だよ」という言葉や、「スーホに会いに走って、走って、走り続けた」という言葉に着目して自分なりの「かんどうポイント」を見つけていました。授業時は私も必死で、サラッと流してしまいましたが、今考えると、「とても素敵な姿だったなぁ」と思います。もっとたくさん褒めて価値付けるべきポイントでした。

第11時の板書写真

授業の振り返りにも、「今回学んだことを3年生の読みでも使いたい!」と書いた子どもがいて、私自身もその子どもたちの姿から授業のつくり方を学ぶことができ、共に大きく成長することができたと思います。また、冒頭に述べた単元のテストも、とても良好な成績でした。読みが苦手な子どもたちも内容をしっかりと確認しながら読み解くことができたのだと思います。

子どもたちの言葉の価値に気付ける教師へ!
久村先生は、授業を改めて振り返ってみると「言葉の価値」に気が付いたと述べていました。私もこれまで同じ経験を何度もしてきました。これは、教師のリフレクションの大切な効果の一つです。この振り返りがあるからこそ、これからの授業づくりがより良いものになります。子どもたちの成長と共に教師も成長できる瞬間です。これは一朝一夕にはできることではありません。日頃から子どもたちの言葉を大切にしていくからこそ、久村先生のように「言葉の価値」に気付くことができるようになります。

初任者とは思えない「しっかりとしたつながりのある授業」にたくさんの学びが詰まっていました。今回の実践からは、「問い」と「板書」がつながることでより効果的に子どもたちの学びの質が高まることが明らかになりました。シンプルな問いは、板書を構造的にし、気付きの生まれるものにします。拙著の中でも何度か述べましたが「Which型課題」と「立体型板書」の相性は抜群です。久村先生のように、丁寧な「確認読み」から、言葉の世界が広がる「解釈読み」へと展開する授業にぜひ挑戦してみてください。

〈参考文献〉

桂聖、N5国語授業力研究会(2018)『「めあて」と「まとめ」の授業が変わる「Which型課題」の国語授業』(東洋館出版社)

桂聖・小貫悟・川上康則編 日本授業UD学会(2021)『授業UDを目指す「全時間授業パッケージ」国語 2年』(東洋館出版社)