子どもの思い込みによる「思考のズレ」から読みを深める➁

子どもの思い込みによる「思考のズレ」から読みを深める➁ - 東洋館出版社

授業者

白石範孝(明星大学教授)

流田賢一(大阪府大阪市立堀川小学校教諭)

高学年の難解な説明文に対峙したときこそ、テキストを丸ごととらえ、接続詞やキーワードから段落同士のつながり、言葉と言葉のつながりを丁寧にとらえることが大切になる。テキストの構造がみえたとき、筆者の主張または要旨をとらえることができるようになる。
白石範孝先生の教材研究オンラインセミナーの第2回目では、白石先生と流田先生の模擬授業を通して子どもたちに説明文の問題解決学習を提案した。
また、具体的な指導法について、協議会で他の先生と共に意見を交わしながら思案していく内容になっている。

1. 白石範孝先生のワークショップ―3つの鉄則から考える、説明文の問題解決学習―

今回のセミナーは「子どもの問いからの授業づくり」「問いの論理的な解決」「説明文の問題解決学習」を設定されている。
まず説明文の3つの鉄則について白石先生が解説した。

基本三部構成をとらえる

文章を最初に三部構成としてとらえることが鉄則1と挙げられている。

・はじめ:話題、課題
・中部分:事例、具体例
・終わり:まとめ、主張、要旨

これが基本三部構成である。
基本三部構成をとらえることでその文章がどのような内容を述べようとしているのか全体を見て理解できる。

話題課題をとらえる

次に基本三部構成のはじめの部分、話題と課題をとらえることが鉄則2として挙げられている。
何についての説明文なのか、はじめの部分を読み解いてとらえていくことが重要。
話題と課題は同じではなく、分けて考えておかなければならない。話題は話の材料、課題は問題や解決しなければならない事柄だ。
話題だけが提示されている説明文、課題だけが提示されている説明文では根本が異なるので、この区別をしっかりとらえることが大切である。

まとめ・主張・要旨の違いをとらえる

鉄則2と同じく、まとめ、主張、要旨を区別することが重要と強調している。
主張がない説明文であるにも関わらず、「筆者の主張は何か?」という問いを設定してはいけない。
「まとめ」とは説明文の中部分で挙げられる具体例をまとめたものと、はじめに提示されている課題についてのまとめがある。
低学年は具体例で終わり、文章に「まとめ」がないことが多い。中学年は具体例をそのまま「まとめ」として書かれていることが多い。

まとめ:事例を挙げてその「まとめ」としての内容が書かれたもの
主 張:具体例や事例から筆者が一番言いたいことが書かれている
要 旨:まとめや主張を一般化した表現

この3つは違うと白石先生は語る。

まとめから筆者の意見を述べるのが「主張」であり、主張が終わった後に出てくるのが要旨となる。
まとめと主張と要旨が同じ段落で述べられている説明文もあるため、気を付けて指導していかなければならない。

例として、説明文の教材「にせてだます」の文章を挙げている。

1段落目:話題「こんな疑問はありませんか?」と提示する部分
2段落目:話題「ぎたい
3段落目:課題「昆虫のぎたいにはどのようなものがあるのか」
4段落目:具体例1 尺取り虫
5段落目:具体例1 鳥の目をごまかすぎたい
6段落目:具体例2 カマキリ
7段落目:具体例2 獲物を捕らえるために役立つぎたい
8段落目:このようにぎたいは身を隠したり獲物を捕ったりするのに役立つ
9段落目:「ぎたい」とは生きていくための大切な特徴

「このように」はまとめに使われるが、全体のまとめか部分的なまとめかしっかり把握しなければならない。
文章を見ていくと、ぎたいという言葉の繰り返しが行なわれている。
ぎたい、「ぎたい」と同じ言葉でもカギ括弧の付いている言葉か否かで説明文内での意味が異なる。

・「ぎたい」はまとめ、一般化、抽象化
・ぎたい(カギ括弧の付いていない言葉)は具体例で使用される

「このように」という言葉がどの範囲にかかっているか、この違いから読み解くことができる。
文末表現を手がかりにすると子どもたちにわかりやすく、論理的な読み方になる。

子どもに問いをもたせるためには「思考のズレ」を生み出すことが大切であり、そのために「課題」を提示するのが重要。

2. 模擬授業1:流田賢一先生―繰り返されるキーワードで要旨をとらえる―

「言葉の意味が分かること」を教材に、流田賢一先生、白石範孝先生の模擬授業2本が行われた。
流田先生は、オンラインで繋がる先生方に質問を投げかけ、チャットに記入してもらう参加型の模擬授業を行なっていく。

大事な形式段落を最初に2つ選ぶ

筆者が言いたいことを考えていく模擬授業で、教材の説明文で「一番大事な段落2つはどこか?」という発問をし、参加している先生方にチャットで記入をしてもらう。
筆者が一番伝えたいことと、二番目に伝えたいことが書かれている段落を選ぶ。
子どもたちにも同じように単元の最初に大事な形式段落を2つ選んでもらうと、参加の先生方と同じように様々な考えが出てきたという。
その際「何故この段落を選んだのか?」と質問すると、「大事なキーワードが出てきているから」と返す子どもが多いという。
次に説明文の中部分において、具体例はいくつに分けることができるのか?という質問をしていく。
使用している説明文は3つに分ける人が多いが、2つに分けることができるという考えも出てくる。
何度も繰り返し出てくるキーワードや接続語の関係から2つに分けることも間違いではないと導くこともできる。

要旨は大事なことをまとめたものである

作者が最後に読者に呼びかけていることを考えて、文章の中の言葉で説明してみようと問いかける流田先生。
作者の主張を踏まえた上で、要旨を考えていく。
要旨とは説明文の中の大事なことをまとめたものになると流田先生は語る。

教材の説明文で繰り返し出てくるキーワードや作者の主張を繋げることで要旨をつくることができるという。
参加している先生方に要旨をまとめてもらい、子どもたちが要旨をとらえる過程を体験してもらう。

3. 模擬授業2:白石範孝先生―子どもの悩みや迷いから問いを設定する―

次は白石先生が模擬授業を行なっていく。
大事なポイントは「子どもの問いをどう解決していくか」と「説明文で重要なこと」の2点。
この2点を中心に話していく。

要約することの大事さ

白石先生は授業の初めに子どもたちへ出す活動指示は「課題」だと言う。
「この文章を200字程度で要約しなさい」という課題を出して、何も言わず子どもに表現させる取組を行なっている。

要約の効果は、文章を読んで自分なりにまとめることで言葉の理解力が身につくためとのこと。

要約するために、以下のポイントを挙げていた。

1.文章のテーマをおさえる
2.1文を短くする
3.個人の主観的な意見や考えを入れない
4.元の文章の全体の内容を含む

要約指導の難しさ

要約することは重要だが、子どもに要約指導を行なうのはとても難しいとも語る。
要約を理解して子どもに「要約しなさい」という授業を行なうのはあまりにも酷である。

まず参加している先生方に授業での悩みをチャットで募る。

・何から書けばいいのか?
・書き始めは?
・字数が多くなる
・どこをまとめる?
・「中」はどの程度入れるべきか?

様々な悩みが出てきた。

一方で子どもからよく出てくる悩みを白石先生が提示していく。

・書けたけど自信がない
・終わりはどう書くの?

その中でも最も多い悩みは「要約ってなに?」というものだという。
そもそも要約とは何か、理解していない子どもが多いことが問題である。

これらの悩みを解決できれば、要約を書くことができるはずだと語る。
子どもたちの「わからない」「できない」という悩み、これ自体も「思考のズレ」であり、ここから「問い」を以下のように設定した。

◆「要約」とは、何をまとめることなのか?
◆文章全体をまとめるとは、どこをどのようにまとめるのか?
◆「書き出し」と「終わり」は、どんなことを書けばいいのか?

この問いに対して、解決策を白石先生が提案していく。
1つ目の解決策は始めに白石先生が話した文章の三部構成をとらえること。
2つめの解決策は前述した要約するためのポイントを押えること。
それでも書き始められない子どもがいる場合、最終的に基本文型を与えてみようと提案。
「筆者は【話題・課題】について【具体例・事例】を通して【まとめ・主張】ということを主張している」が基本文型。
説明文から「話題、課題」「具体例、事例」「筆者の考え、まとめ」を探し、基本文型に当てはめることで子ども全員が要約できるように促す。

子どもが一体何ができないのか考え自覚させ、子どもの問いに対して要約を通し、解決に向けて指導していくことが「子どもの問いを解決していく授業」において大事だと白石先生は最後にまとめた。

4. 協議会―正解は教材研究と目の前の子どもの姿によって変わる―

シンポジスト
司会進行:野中太一(暁星小学校)
授業者:白石範孝(明星大学)
授業者:流田賢一(大阪府大阪市立堀川小学校)
小島美和(東京都・杉並区立桃井第五小学校)
田島亮一(明星大学)

残りの時間は白石先生、流田先生を含めた5名の先生による協議会。
進行を野中先生が行ない、模擬授業の振り返りと共に参加者の先生からの質問をチャットで募りながら進めていく。
また、2人の先生が行なった模擬授業を受けて、小島先生と田島先生がそれぞれ授業へのコメントを行なった。

「要旨と主張の違いをもう少し話を聞きたい」

まず、流田先生が模擬授業の振り返りと質問への回答を行なっていく。
どちらが正しい答えか?ということではなく、文章を読んで子どもたちが考え、キーワードを繋げて主張や要旨をとらえることが大切だという。

次に白石先生が模擬授業において要旨と主張の違いをもう少し聞きたいという質問に対して回答した。
要旨は抽象、主張は具体だと白石先生はいう。
具体例をまとめた筆者の主張、そこから抽象化し、もっと大きな所からまとめることが要旨だと白石先生はとらえている。

同じ教材でも考え方とらえ方、それぞれの違いが見えた

同じ教材でも考え方やとらえ方が白石先生と流田先生それぞれの違いが見えたと小島先生からの指摘。
文章構成をとらえる部分で、流田先生と白石先生でどこを基準、拠り所にするか違うように感じたので異なる部分を聞きたいという。
2人の先生で主張ととらえている部分が異なるのではないかという疑問。

1時間の授業での指導案と全体を通した指導案

流田先生は1時間の授業での指導案で、白石先生は全体を通した指導案だと感じた。
「子どもの問いからの授業づくり」というテーマが設定されているが、1時間と全体では「子どもに問いをもたせる」部分に違いが出てくるため、2人の先生の模擬授業ではその部分にズレが出てくるのでは?という指摘があった。

どのキーワードを使って説明できるかが評価の違いになるのでは?

田島先生は子どもが文章を本当に読んだのか?読んだ気になっているのでないかと指摘する。
どのキーワードを使って説明できるかを評価の基準にするべきではないかと田島先生は考えている。

田島先生が課題を設定する場合、形式段落も大事だが、内容に入った課題を設定するという。
2人の模擬授業を受けて、子どもの問いのもたせ方、思考のズレを引き出せているのか?
白石先生の模擬授業は文章の理解より要約の仕方による子どもの困り感を引き出しているのではないか?と指摘された。

白石先生は1回2回読んだだけで内容に入るのは大人でも難しいことであると返答している。
それを踏まえた課題を子どもに出すのは、子どもが文章を読むこと自体から離れてしまうのではないかと危惧した。

5. おわりに

先生方の様々な意見が熱く展開され、よりよい授業づくりについて真剣に取り組んでいるのがわかる。
指導案をただ提示するだけでなく、他の先生やオンラインで参加している先生の意見も取り入れながら、今回の教材を最大限活かす方法を模索していった。

野中先生は「要旨は国語教育の中で明確な正解がなく、先生の中でも意見が大きく分かれることもある」という。
それぞれの立場や考えでどこが主張であるか、どこを要旨としてとらえるか変わっていくため、セミナーでどの先生の指導案に価値を見出すか、オンラインで参加している先生の判断に委ねるしかない。

ただ、上から言われたものをそのまま行なうのではなく、このように様々な意見を交え考えることが研究会として重要であると白石先生は最後に語る。
子どもに教えるということを前提に授業づくりをしていることを改めて考えるためにも、オンラインセミナーに参加する価値は大いにあると言えるだろう。

6. 参加者の声

ワークショップについて

  • 教材分析の基礎を学ばせていただきました。ありがとうございました。
  • この観点はどんな説明文でもつかえ、次に教材研究をするときにつかってみたいと思いました。
  • 非常に参考になりました。今年、教員になったばかり、かつ国語の授業に苦戦していたため衝撃をとても受けました。特に、まとめ、主張、要旨については自分の中で深く理解できていなかったため、大きな学びになりました。

模擬授業について

  • 説明文は、学年が上がるたびに構造が複雑になっていくので、指導の1つの形を知ることができて良かったです。もっともっと国語を学びたいと思いました。ありがとうございました。
  • 子どもへの課題の与え方、要約の仕方が大変勉強になりました。今までのもやもやがすっきり解決しました。
  • 本で拝見していただけでは、分からないところを授業を通して発見できました。

協議会について

  • 教材に対して様々な考えがあって楽しい協議会でした。
    まさに、「思考のズレ」でした。その話し合いを聞いて、私自身がどのような内容や方法で児童と一緒に考えていくのかが大切かと考えました。
  • 忌憚の無い意見交換を拝見して刺激を受けました。

7. 今後の開催予定イベント情報