【第4回】どう読む?どう生かす?PISA2022レポート 〜自律学習の自信と探究的なICT活用〜

執筆者: 樋口綾香

|

2023年12月5日、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)2022の分析結果が公開されました。日本が世界トップ水準の学力を維持していることが評価された一方で、現場レベルでは「授業をしている手応えと違って実感できない」という声も聞かれました。

そこで、分析結果を「現場の目線で読んでみよう」と考え、本連載を企画し、4回にわたりお送りします。最終回の第4回は、樋口綾香先生に、気になる二つの指標から、これからの国語授業の在り方を考えていただきます。

樋口 綾香先生
2008年から大阪府で小学校教諭をしている。大阪教育大学附属池田小学校で「読解力・表現力を育成する多読を基にした言語活動のカリキュラム開発(科研費奨励研究16H10516)」や「シンキングツールを取り入れた構造的板書による読解力・対話力と情報活用能力の研究(科研費奨励研究17H00095)」などに取り組み、現在は大阪府公立小学校勤務。Instagramでは@ayaya_t_で自分の授業を磨くために板書や授業のリフレクションを発信し続けている。関西国語授業研究会、授業力&学級づくり研究会所属。著書に『「自ら学ぶ力」を育てる GIGAスクール時代の学びのデザイン』(東洋館出版社)など他多数。その他、『先生スタイル手帳』のプロデュースも行う。

昨年の12月5日、私はPISA2022のレポートを少々興奮しながら読んでいました。

  • 科学リテラシー  1位/37か国
  • 数学的リテラシー 1位/37か国
  • 読解力      2位/37か国

なんと輝かしい成績なのでしょう。
読解力においては、PISA2018は11位で、OECD平均より高得点のグループに位置しているものの、2015年調査から有意に低下していたため、情報活用能力の確実な育成、言語能力の育成に向けたカリキュラム・マネジメントの充実、「読むこと」の指導の充実などが改善策として挙げられていました。そして、PISA2022では2015年とほぼ同水準という結果になりました。

コンピュータを使った問題に慣れていないとか、日本はICT活用の授業がほとんど行われていないとか、遅れていると言われていた問題をスピーディに解決できる日本の教育力の高さを感じました。

その一方で、気になるレポートもありました。
それは、

  • 「自律学習と自己効力感」指標 34位/37か国(資料1)
  • 「ICTを用いた探究型の教育の頻度」指標 29位/37か国(資料2)
(資料1)出典:文部科学省・国立教育政策研究所令和5年12月5日 OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント p.16
(資料2)出典:文部科学省・国立教育政策研究所令和5年12月5日 OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント p.17

という二つの指標です。これは、

  • 学力は高いのに、自律学習や自己効力感は低い。
  • ICT活用率は高い(5位)のに、探究的な学びには、デジタルリソースを使えていない。

ということになります。
この二つの指標から、これからの国語授業の在り方を考えていきたいと思います。

PISA2022では、自律学習を行う自信があるかどうかを判断するために、生徒に次の質問をしました。
「今後、あなたの学校が再び休校した場合、以下のことを行う自信はどれほどありますか。」

  • ビデオ会議システムを使う
  • 学習管理システム又は学校学習プラットフォームを使用すること
  • 自力で学校の勉強をこなす
  • 自分で学校の勉強をする予定を立てる
  • 言われなくても学校の勉強にじっくり取り組む
  • 学校の勉強をするやる気を出す
  • 自分でオンラインの学習リソースを探す

これらに対して、「あまり自信がない」「全然自信がない」と答えた生徒は、全項目で半数以上でした。

では、このような質問に学級の子どもたちが「とても自信がある」「自信がある」と答えられるような授業を、私たちはしているでしょうか。単元の中で自分で計画し、自分で実行し、自分で調べるという選択肢があり、それらを適切に評価できていたでしょうか。

現行の学習指導要領になり、「主体的・対話的で深い学び」を合言葉に、確かに授業改善が進んだ実感があります。決められた学習内容を、決められた時間で、最善の方法を考えて、一生懸命に授業をしてきました。
しかし、それは、子どもたちの学びを、ある範囲の中に閉じ込めてしまうものだったのかもしれません。単元の学びを積み重ねても、子どもたちは「できるようになった自分」に気づかなければ自己効力感は得られません。学び方を獲得できていなければ、自分で学ぶこともできません。

「主体的」って何なのでしょう。
「言われたことに前向きに取り組むこと」でしょうか。いいえ、決められていないことに対して、自分の意志に基づき、自分の判断で行動しようとすることです。
私たちが求めていたのは、「自主的」だったのかもしれませんね。

自律学習の自信を高めるには、自己効力感を得られる課題や振り返り、評価があり、学校の学びを教科書の学びや、学校内の学びに閉じ込めるのではなく、地域や社会に開かれた探究的な学びを意識して単元計画を立てる必要があると考えます。

単元の中で自分で計画し、自分で実行し、自分で調べるという選択肢があり、それを適切に評価することが大切だと先に述べましたが、そのためにはICTは必須であると考えています。

(資料3)出典:文部科学省・国立教育政策研究所令和5年12月5日 OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント p.16

資料3を見ると、学校でのICT活用状況は、GIGAスクール構想によってハード面が充実したことにより確実に進み、OECD平均を上回っています。しかし、資料4では、各教科の授業でのICT利用頻度が、OECD平均よりも低いことが分かりました。

(資料4)出典:文部科学省・国立教育政策研究所令和5年12月5日 OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント p.17

また、資料5の探究的にデジタル・リソースを活用したかどうかについては、OECD平均を大きく下回りました。

(資料5)出典:文部科学省・国立教育政策研究所令和5年12月5日 OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント p.17

これらから言えることは、学校や教師のICT活用は高まったが、子どもたち自身が自分で判断してICTを活用する学習が行われていないということです。たしかに、授業内で1人1台端末を使うことは増えましたが、今年見た授業でも、「先生に指示があったときに出して、先生に指示された通りに使う」というものがほとんどだったように思います。

この影響は、読解力を測定する能力である「①情報を探し出す」「②理解する」「③評価し、熟考する」の中で②に比べ、①と③の正答率が低いことにも影響としていると考えられます(資料6)。国語の言語活動の中で、情報を自ら探し出すこと、探し出した情報の質と信ぴょう性を評価すること、さらに自分ならどう対処するか、根拠を示して説明することを課題として取り組ませることで、自律学習への自信も、探究的な学びの中でのICT活用の利用頻度も高まっていくのではないでしょうか。

(資料6)出典:文部科学省・国立教育政策研究所令和5年12月5日 OECD生徒の学習到達度調査 PISA2022のポイント p.8

次の資料は、PISA2018で出題された読解力の問題です。

問題は、①大学教授のブログ、②ブログの中で紹介された本の書評、③この本の内容に関するニュースからそれぞれ出題されており、ストーリー性のある問題の出し方になっています。読むテクストは、ブログ、書評、ニュースというように多様です。
これらを国語の説明文単元に置き換えて考えてみましょう。

  • 一つの説明文を読み、筆者の主張を捉え、自分の考えをもつ。
  • その教材や筆者と関連する図書を読み、自分の考えをもつ。
  • 学んだことを地域や社会の問題とつなげたり、自分で問いを見つけてさらに学習する。

このような学習の流れは、多くの先生が取り組んでいるのではないでしょうか。少なくとも教科書は、ほとんどの場合、このような学習の流れを意図して、学習計画例が提示されています。学習計画例の中にある意図をきちんと理解して、子どもたちが主体的に学習を進められるように、しかけをつくったり、問いや振り返りを共有する時間を確保したり、ICTを活用したりすることが重要です。
そして、扱うテクストにおいても、PISA2022では、企業のWebサイト、オンライン雑誌記事など、情報化社会で子どもたちが出会う文章が問題として出題されています。教科書だけでなく、関連する図書やインターネット上の資料を積極的に用いることで、探究的に学ぶことが可能になるでしょう。

学び合う学習集団をつくり、子ども理解や教材理解を深めて授業改善に邁進してきた成果が感じられた一方で、自律学習の自信のなさや、探究的なICT活用については課題があるということが分かりました。
これからの授業では、教科の学びに閉じない、社会に開かれた単元デザインが肝要です。子どもたち自身が自分で学び方を選択しながら学び続けていける学習環境をつくっていきたいと思います。

◆ どう読む?どう生かす?PISA2022レポート 記事一覧はこちら▶︎