特集 ちえをもちよる vol.3 コロナショックでも学習保障をするためのオンライン授業

執筆者: 堀田龍也

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特集「ちえをもちよる」、小社でこれまでに「緊急事態下での教育現場」をテーマに製作した書籍の論考をピックアップし、順次無料公開をしてまいります。教育に携わる皆さまが、今できることを考えたり、不測の事態に備えたりする際の一助になればと思います。

第3回は、『ポスト・コロナショックの学校で教師が考えておきたいこと』(2020年刊行)所収の論考です。コロナ禍での全国一斉休校を契機に、オンライン授業は、「これから何度でも経験する学習方法」として、その整備が加速度的に進みました。現在、被災地域の子どもたちの学習の継続のため、オンラインが活用されるなか、緊急時においても持続可能なオンライン学習のために必要な発想とは、どのようなものなのでしょうか。教育工学がご専門の堀田龍也さんが知恵を持ち寄ります。

新学習指導要領においては、その前文に次のような文章がある。「様々な社会的変化を乗り越え(中略)持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる」。今はまさに、この前文に書かれた人材育成の機会である。

2020年3月2日に始まった学校の臨時休業。当初は、卒業や進級の大切な気持ちの醸成や、年度末の学習の定着ができなかったという教員たちの声が多かった。4月7日には地域を限定した上での緊急事態宣言が発出、4月16日には全国を対象とすることになり、学校の休業が延長されることになった。この頃から、学習保障について、学校だけでなく子どもも保護者も不安が募るようになった。文部科学省は未曾有のこの事態に対し、対応の基準を示し、更新し続けた。ニュースでも学校の休業時の学習保障が連日取り上げられるようになり、オンライン授業に代表されるICTの活用に注目が集まることとなった。

5月25日、緊急事態宣言が全面解除された。今後は、分散登校を中心に学校の再開に向かっていく。しかし、登校できない時間の学習保障の必要性は続くことになる。感染拡大の第二波・第三波も予想されている。

そこで本稿では、学校の休業中の家庭学習の充実におけるオンライン授業の役割を検討する。なお、ここでは「オンライン授業」と通称で記すが、厳密には朝の会などの学級活動や、生徒指導上の観点からも有効な取組まで含むこととし、在宅等で家庭学習に取り組む児童生徒に対し、学校または在宅勤務中の教員が、生活や学習の支援に必要なコンタクトをとるためにICTを用いるさまざまな行動を指すこととする。

まず、オンライン授業を実施する主体について確認しておく。先のように広くオンライン授業をとらえた場合、個々のオンライン授業は児童生徒への教育行為そのものであるから、多くは教員の業務である。これらのオンライン授業を教育課程に基づき組織的かつ計画的に設定し、教育活動の質の向上を図るのであるから、新学習指導要領「解説」総則編に書かれているところの「学校が適切な教育課程を編成する」に基づくものであり、カリキュラム・マネジメントの対象となる。オンライン授業を実施可能とするICTやネットワーク環境の整備については、学校の設置者である各教育委員会の責務である。

ここでは、新型コロナウイルス感染症対策のための学校における臨時休業についての文部科学省の通知等のうち、オンライン授業を含むICTの活用について触れた文書を確認していくこととする。西暦は全て2020年である。

新学習指導要領「解説」総則編では、標準授業時数について「指導に必要な時間を実質的に確保するという考え方」であり、学校教育法施行規則で定められた標準授業時数をふまえて教育課程を編成したものの「災害や流行性疾患による学級閉鎖等の不測の事態により当該授業時数を下回った場合」であっても、その確保に努力することを前提に制度に反するものとはしないことが示されている。

今回の新型コロナウイルス感染症による学校の休業による授業時数の不足は、この規程に当てはまるものであり、授業時数の確保の努力は前提としつつも、標準授業時数に達することそのものが目的ではないことを前提として確認しておく必要がある。

オンライン授業が実施され始め、そこでは主たる教材である教科書を活用することが一般的であることをふまえ、3月4日には文化庁著作権課が、3月18日には文部科学省初等中等教育局教科書課が、教科書等を利用したオンライン授業における公衆送信や複製等に対する緩和を関連団体に要請した。また、5月7日には、教科書課をはじめとする関連課と文化庁著作権課の連名で、上記緩和を教育委員会主体であっても認める配慮を促した。

4月10日に初等中等教育局長名で出された通知では、「家庭学習と、登校日の設定や家庭訪問の実施、電話の活用等を通じた教師による学習指導や学習状況の把握の組合せにより、児童生徒の学習を支援するための必要な措置を講じること」を学校に要求している。その際の家庭学習の内容の例として、プリントを活用した学習の他に、Eテレ等のテレビ放送を活用した学習、教科書発行者などが提供するICT教材や動画を活用した学習、文部科学省が用意した「子供の学び応援サイト」のリンク集、ICTによる個別学習が可能なシステムを活用した学習、一定のテーマについてインターネットを活用して調べまとめる学習、テレビ会議システム等を活用した教師による同時双方向型のオンライン指導を通じた学習が例示されている。また「家庭が保有するスマートフォンやパソコン、タブレット端末等の利用も考えられる」と例示している。

4月17日には文部科学事務次官通知として、「可能な限り、紙の教材やテレビ放送等を活用した学習、オンライン教材等を活用した学習、同時双方向型のオンライン指導を通じた学習などの適切な家庭学習を課す等、必要な措置を講じること」と、ICT活用のトーンがやや強まっている。これは、4月16日付の文部科学省による調査において、臨時休業中の家庭学習で「教育委員会が独自に作成した授業動画を活用した家庭学習」を行っている(計画していることを含む)自治体が10 %、「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」を行っている(同上)自治体が5%と低い割合であったためである。

さらに4月21日には初等中等教育局長通知として、「指導計画等を踏まえ、各教科等において、主たる教材である教科書及びそれと併用できる教材等に基づく家庭学習を課すこと」を示し、その際に「ICTや電話等を活用した学習指導や学習相談を可能な限り行う」というフォローアップを求めている。さらに「今回が緊急時であることにも鑑みると、学校設置者や各学校の平常時における一律の各種ICT活用ルールにとらわれることなく」ICT環境の積極的な活用に向けてあらゆる工夫をすることを要求している。


5月1日、初等中等教育局長通知として、「学校の臨時休業を続けざるを得ない地域においても、ICTを最大限活用しながら(中略)分散登校を行う日を設けることにより、段階的に学校教育活動を再開」することを示している。その際、「一定の要件を満たす場合には、学校の再開後に再度授業において取り扱わないこととすることができること」「一部の児童生徒への学習の定着が不十分である場合には、別途、個別に補習を実施する、追加の家庭学習を適切に課すなどの必要な措置を講じること」としている。かなり踏み込んだ感のあるこの表現は、学校の年間指導計画の順序の入れ替え等によって家庭学習に前倒しで振り分けた学習活動をカリキュラム・マネジメントの一環として認め、十分でない児童生徒にはフォローアップすることを前提に、学校再開後に無理に同じ授業を実施しなくてもよいという、学校現場に裁量があることを強く是認した歴史的な通知であると考えられる。この場合、ICTによる指導によって学習ログが残ることは、学習成果と評価情報として有効に作用するものである。

5月15日の初等中等教育局長通知では、分散登校では最終学年である小学校第6学年・中学校第3学年を優先すること、教師による対面での学習支援が特に求められる小学校第一学年の児童にも配慮することを要求した上で、最終学年以外は、複数年度を見越したカリキュラム・マネジメントを特例として認めている。さらに特例的な対応として「個人でも実施可能な学習活動の一部をICT等を活用して授業以外の場において行うことなど」によって、「学校の授業において行う学習活動を、教師と児童生徒の関わり合いや児童生徒同士の関わり合いが特に重要な学習への動機付けや協働学習、学校でしか実施できない実習等に重点化する」ことを認めている。このこともまた、カリキュラム・マネジメントの一環として、学習内容の振り分けにより、授業時数として読める部分では学校における集合学習ならではの学習活動に重点化する一方、授業時数として読めない家庭学習等においても、ICTの活用等によって指導の充実を図り、その状況・成果を丁寧に把握することや内容の定着が不十分な児童生徒に対しては個別に指導を行うことをもって、授業時数には加わらない学習活動の充実も視野に入れて学習保障を図るという、これまでにない踏み込んだ記述である。オンライン授業はその方法として不可避なものであると考えられる。

家庭学習であっても学校が意図的・計画的に行う教育活動であり、学習保障の重要な方法としてオンライン授業が実施されていることを背景に、5月15日に厚生労働省が、オンライン授業のための通信費について「必要な額を教育扶助又は生業扶助における『教材代』として実費支給する」ことを表明した。家庭の環境による教育機会の格差の是正措置である。

政府は2019年12月に、令和5年度までに義務教育の児童生徒に一人一台の情報端末を導入する「GIGAスクール構想」を発表し、2318億円の補正予算をつけた。

その後、学校の休業によってオンライン授業のニーズが高まったことから、GIGAスクール構想を前倒しし、令和2年度中に完了させるための追加予算として2292億円をつけた。

これらの予算により、学校現場のICT環境整備は飛躍的に進むことになる。

Zoom等の同期型双方向のオンライン会議システムを活用すれば、児童生徒と顔を見たコミュニケーションができる。通常の授業は、学級というコミュニティを前提にして進行する。オンライン授業でも同様で、教師や友達の顔が見え、会話を交わすことができることによって、子どもたちにもたらされる安心感は大きい。朝の会の10分間の利用などから始める例が多いことも納得できる。

主たる教材とされる教科書は、教室において対面授業が行われることを前提として設計されている。したがって、児童生徒にただ教科書を読めと言っても、そこから何を得るべきかという支援がなければ学習は成立しない。プリントを配布しても、ノルマ的にそれをこなすだけでは、学習としては十分ではない。

双方向型かどうかはともかく、教師から児童生徒へ、教科書をどう読み、何をこそ読み取るべきか、プリントの目的は何で、どんなことができることが大切なのかについて語りかけることが重要である。

通常の授業では、理解を促すために教師が説明をしたり、児童生徒が自分の考えをノートに書いたり、考えを友達と共有して触発されたりする。終盤には、習熟や定着のために演習等が行われる。このように、授業はいくつかの学習活動の組合せによってできあがっており、それぞれの学習活動には目的がある。

オンライン授業を行う場合、通常の授業全てを一つのツールで行うのではなく、学習活動ごとに、目的を達成させやすいツールに割り振って行うことがポイントである。顔を見て声を聞くことができるオンライン会議システムでは、主旨説明や課題意識の醸成を中心に、短い時間で行うのがよい。一方、オンライン動画などは、児童生徒の都合のいい時間に取り組むことができ、時間も個々に応じることができる。これは通常の授業にはないメリットでもある。

再度学校が休業するようなことがあった場合、子どもたちはまた在宅で家庭学習に取り組むことになる。オンライン授業は、これから何度でも経験する学習方法になる。

数分の授業動画に何時間もかかるようでは続けることが難しくなる。学習内容によっては、NHK for Schoolなどの既存のコンテンツが役立つ。持続可能性が高い方法を選択し、組み合わせることが必要である。

新型コロナウイルス感染症の拡大と、それによる学校の休業など、誰にも予測できなかったことである。このような緊急時において、平常時の発想を捨てられないことこそが大きな問題である。過剰な平等意識が「できることから始める」ことを邪魔している。

そもそも、目的は学習保障であって、端末やWi-Fiの整備は方法に過ぎない。方法が揃わないうちは、揃える方向に努力するだけの話であり、方法が揃わないから不公平だということでもない。

分散登校とオンライン授業の組合せで学習保障をする時代がやってきた。教師の仕事はこれまでどおり、オンラインであっても少しでも子どもたちに寄り添うことである。焦ることはない。今までと同様、子どもたちファーストの学校現場であり続けることを期待したい。

堀田龍也(ほりた・たつや)

東北大学大学院情報科学研究科教授。中央教育審議会委員のほか、デジタル教科書やプログラミング教育などに関する文部科学省の検討会の座長を務める。

*本稿は、『ポスト・コロナショックの学校で教師が考えておきたいこと』東洋館出版社、2020年、40-45頁に所収しています。

掲載をご快諾いただきました執筆者の皆さまに、この場を借りて御礼を申し上げます。

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