特集 ちえをもちよる vol.5 安全に関する教育 特別支援学校等における安全に関する教育の充実

執筆者: 堀之内恵司

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令和6年能登半島地震を受け、小社では今後も出版物等のメディアを通して、教育現場に対して有意義な情報提供ができるように取り組んでいく所存です。特集「ちえをもちよる」第5回からは、文部科学省特別支援教育課編集の季刊誌『特別支援教育』91号(2023年秋号)の特集「学校における安全に関する教育」から、記事を掲載していきます。

様々な自然災害の発生や、子どもたちを取り巻く安全に関する環境も変化していることから、身の回りの生活の安全や交通安全、防災に関する指導、情報技術の進展に伴う新たな事件・事故防止等について、教育現場でも取り組むことが求められるでしょう。
その際、特に障害のある子どもたちに対しては、一人ひとりの障害の状態等を把握しながら教育活動全体を通じて組織的、計画的に取り込むことが必要です。どのような視点をもっておいたらよいのか、今回は学習指導要領などに照らしながら考えていきます。
教育に携わる皆さまが、今できることを考えたり、不測の事態に備えたりする際の一助になればと思います。

我が国は、現在、地震、豪雨、台風などの計り知れない自然災害のリスクに直面している。また、学校における活動中の事故や登下校中などにおける事件・事故など、子供の安全を脅かす様々な事案も次々と顕在化している。まさに、子供自身が災害等による困難を乗り越え、自らの安全を確保することのできる基礎的な資質・能力を教科等横断的に育成する「安全に関する教育」を充実することが、重要になっているところである。
このような中、文部科学省においては、今後5年間(令和4年度から令和8年度)の学校安全に係る基本的方向性と具体的な方策を示した「第三次学校安全の推進に関する計画」を、令和4年3月に策定した。各学校においては、本計画に基づきながら、安全に係る取組を総合的かつ効果的に推進するとともに、安全に関する教育を通じて、子供自身が安全で安心な生活や社会を実現するための資質・能力の育成を一層図っていくことが重要となる。
特に、障害のある子供の安全を確保し、これらの資質・能力を育んでいくためには、一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等(以下、「障害の状態等」という)を適切に把握するとともに、各教科、道徳科、外国語活動、総合的な学習(探究)の時間、特別活動及び自立活動においてはもちろん、教科等横断的な視点で関連性をもたせながら指導を行い、教育活動全体を通じて、組織的、計画的に安全に関する教育へ取り組むことが必要となる。
また、校外の専門家や関係機関と連携を図るなど、地域の特性や子供の実情に応じながら、安全に関する教育を推進する校内の体制づくりに努めることも必要となる。

特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第1章総則第2節の2の⑶には、「生きる力」に必要な項目の一つである「健やかな体」において、次のように示されている。

⑶学校における体育・健康に関する指導を、児童又は生徒の発達の段階を考慮して、学校の教育活動全体を通じて適切に行うことにより、健康で安全な生活と豊かなスポーツライフの実現を目指した教育の充実に努めること。特に、学校における食育の推進並びに体力の向上に関する指導、安全に関する指導及び心身の健康の保持増進に関する指導については、小学部の体育科や家庭科(知的障害者である児童に対する教育を行う特別支援学校においては生活科)、中学部の保健体育科や技術・家庭科(知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校においては職業・家庭科)及び特別活動の時間はもとより、各教科、道徳科、外国語活動、総合的な学習の時間及び自立活動などにおいてもそれぞれの特質に応じて適切に行うよう努めること。また、それらの指導を通して、家庭や地域社会との連携を図りながら、日常生活において適切な体育・健康に関する活動の実践を促し、生涯を通じて健康・安全で活力ある生活を送るための基礎が培われるよう配慮すること

(※傍線は筆者による)

特別支援学校等においては、様々な自然災害の発生や、情報化やグローバル化等の社会の変化に伴い、子供を取り巻く安全に関する環境も変化していることから、教師が身の回りの生活の安全、交通安全、防災に関する指導や、情報技術の進展に伴う新たな事件・事故防止、国民保護等の非常時の対応等の新たな安全上の課題に関する指導を一層重視し、心身の成長発達に応じて、障害のある子供が安全に関する情報を正しく理解し、安全のための行動に結び付けられるようにすることが重要である。

安全に関する教育においては、子供が日常生活全般における安全確保のために必要な事項を実践的に理解し、自他の生命尊重を基盤として、生涯を通じて安全な生活を送る基礎を培うとともに、進んで安全で安心な社会づくりに参加し貢献できるような資質・能力を育成することを目指している。
なお、安全に関する資質・能力については、現代的な諸課題に求められる資質・能力の一つの例として、中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」に示されている。

○様々な自然災害や事件・事故等の危険性、安全で安心な社会づくりの意義を理解し、安全な生活を実現するために必要な知識や技能を身に付けていること。(知識及び技能)

○自らの安全の状況を適切に評価するとともに、必要な情報を収集し、安全な生活を実現するために何が必要かを考え、適切に意思決定し、行動するために必要な力を身に付けていること。(思考力、判断力、表現力等)

○安全に関する様々な課題に関心をもち、主体的に自他の安全な生活を実現しようとしたり、安全で安心な社会づくりに貢献しようとしたりする態度を身に付けていること。(学びに向かう力、人間性等)

特別支援学校等においては、子供や学校、地域の実態並びに子供の障害の状態等を考慮して学校の特色を生かした安全に関する教育の目標や指導の重点を計画し、教科等横断的な視点による教育課程を編成・実施していくことが求められる。また、障害のある子供が自らの障害の特性の理解を深めて、日常生活における危険な状況を適切に判断し、回避するために最善を尽くそうとする「主体的に行動する態度」を育成するとともに、危険に際して自らの命を守り抜くための「自助」、自らが進んで安全で安心な社会づくりに参加し、貢献できる力を身に付ける「共助、公助」の視点からの安全に関する教育を推進することが重要となる。

子供一人一人の安全に関する資質・能力は、一つの教科等における学習で身に付くものではないことから、安全に関する教育の目的や目標の実現に必要な内容を、各教科、道徳科、外国語活動、総合的な学習(探究)の時間、特別活動及び自立活動などにおいて、教科等横断的な視点で関連性をもたせながら指導していくことが大切である。

例えば、小学校社会科第四学年では、地域の関係機関や人々は、自然災害に対し、様々な協力をして対処してきたことや、今後想定される災害に対し、様々な備えをしていることを理解したり、過去に発生した地域の自然災害(地震災害、津波災害、風水害、火山災害、雪害など)、関係機関の協力などに着目して、災害から人々を守る活動を捉え、その働きを考え、表現したりすることが示されている。

また、小学校理科の内容の取扱いについての配慮事項では、天気、川、土地などの指導に当たっては、災害に関する基礎的な理解が図られるようにすることと示されている。具体的には、第5学年では、長雨や集中豪雨がもたらす川の増水、台風など、気象情報から自然災害との関連を図ることや、第6学年では、火山の噴火や地震がもたらす自然災害に触れ、過去に起こった火山の活動や大きな地震によって土地が変化したことや、将来にも起こる可能性があることを捉えるようにすることが示されている。

特別活動の学級活動の⑵のウでは、現在及び生涯にわたって心身の健康を保持増進することや、事件や事故、災害等から身を守り、安全に行動することが示されている。具体的には、防犯を含めた身の回りの安全、交通安全、防災など、自分や他の生命を尊重し、危険を予測し、事前に備えるなど、日常生活を安全に保つために必要な事柄を理解する内容が挙げられる。他にも、進んできまりを守り、危険を回避し、安全に行動できる能力や態度を育成するなどの内容が考えられ、各教科等や総合的な学習の時間等とも関連を図りながら指導していくことが大切となる。
各学校においては、このような各教科等の特質に応じて行われる生活安全・交通安全・災害安全に関する指導の内容を踏まえながら、学校の特色を生かした安全に関する教育の目標や指導の重点を設定し、教育課程を編成・実施していくことが重要となる。
そのためにも、学校の教育目標や子供の実態、地域の実情に基づきながら、教育課程全体を通じて教科等横断的な視点から安全に関する教育活動の改善を図ったり、学校全体としての取組を通じて、教科等や学年を超えた組織運営の改善を行ったりする、カリキュラム・マネジメントに努めていただきたい。
また、特別活動は、各教科等で育成した安全に関する資質・能力を、集団や自己の課題の解決に向けた実践の中で活用することにより、実生活で活用できるものにする役割を果たすものである。
特に、自然災害は、気象や地象の状況と深い関係があることなどを踏まえて、日頃から気象庁などからの情報や防災情報、地域の地理的環境などに関心をもち、災害が起きたときに自分自身の安全を守るための行動の仕方を考えたり、自分たちにできる自然災害への備えを選択・判断したりすることができるように指導することが大切である。
例えば、前述した社会科で、地域の地形の特徴や過去の自然災害について学び、理科で自然災害につながる自然の事物・現象の働きや規則性などを学んだことを生かし、想定される災害について、子供自身が「どのように身を守ったらよいのか」と関連させながら、実際に避難訓練を実施することなどが考えられる。

なお、小学校学習指導要領第6章の第2及び中学校学習指導要領第5章の第2〔学校行事〕の2「内容」には、次のとおり示されている。

⑶健康安全・体育的行事
心身の健全な発達や健康の保持増進、事件や事故、災害等から身を守る安全な行動や規律ある集団行動の体得、運動に親しむ態度の育成、責任感や連帯感の かん 養、体力の向上などに資するようにすること。

避難訓練など安全や防災に関する学校行事の実施に当たっては、表面的、形式的な指導に終わることなく、具体的な場面を想定するなど、適切に行うことが必要である。
各学校においては、様々な災害を想定した避難訓練等が実施されているが、例えば、登校直後、給食、休み時間の移動中、寄宿舎での生活中など、学校生活の様々な時間帯で想定される災害等を想定した避難訓練などの実施も考えられる。また、地域の環境や地形、自然災害等に応じた避難訓練や地域住民と共同して実施する防災訓練などの実施も考えられる。更には、遠足・集団宿泊的行事における宿泊施設等からの避難の仕方や地理的条件を考慮した安全の確保などについて、適宜指導しておくことも大切となる。

障害のある子供に対する安全に関する教育を充実させるためには、教師が、子供一人一人の障害の状態等を理解し適切に把握するとともに、障害のある子供が自分の障害の特性の理解を深めて、安全に留意した学校生活を送ることができるように、継続した指導を進めていくことが大切である。
例えば、災害安全に関する指導に関して述べると、聴覚障害のある子供に対しては、災害が起きた際、放送等による避難指示を十分聞き取ることができないことを想定して、災害の情報を周りの人に文字や絵で教えてもらうことや、事前に避難する場所や経路の目印を確認することなど、安全の確保と迅速に避難するための指導を行うことが考えられる。
また、情緒障害のある子供に対しては、災害時の環境の変化に適応することが難しいことがあることから、極度に混乱した心理状態やパニックに陥ることを想定して、落ち着いて行動したり、安心して避難したりするための指導を行うことが考えられる。
そのためには、学級担任や養護教諭をはじめとして、子供に日常的に接する教師が、継続的に観察や情報交換を行い、個別の指導計画の作成・活用を通して、個々の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行わなければならない。なお、学校安全資料「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」(文部科学省)には、障害のある子供が事故等発生時に陥りやすい例として、次のような内容が示されているので、参考としていただきたい。

「学校安全資料『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」について:文部科学省

障害のある児童生徒等が事故等発生時に陥りやすい例

1 情報の理解や意思表示
○情報の理解・判断に時間を要したり、できなかったりすることがある。
○自分から意思を伝えることが困難なことがある。
※全体への緊急情報伝達だけでは情報伝達漏れが生じやすく、視覚障害や聴覚障害では、障害に応じた情報伝達方法の配慮が必要である。また、知的障害のある児童生徒等には、個別に簡潔な指示を与える必要がある。

2 危険回避行動
○危険の認知が難しい場合がある。
○臨機応変な対応が難しく、落下物等から逃げるなどの危険回避が遅れることがある。
○風水害時の強風や濁流等に抗することが難しい。
○危険回避しようと慌てて行動することがある。
○けがなどをしても的確に訴えず、周囲が気付かないことがある。

3 避難行動
○落下物や転倒物、段差や傾斜により避難行動に支障が生じることがある(肢体不自由・視覚障害)。
○エレベーターが使えない状況で、階下や屋上への避難に支障が生じることがある(肢体不自由)。

4 生活・生命維持
○薬や医療用具・機器がないと生命・生活の維持が難しい。
○避難時の天候や気温によっては生命の危険がある。

5 非日常への適応
○経験したことのない場面や急激な環境の変化に、うまく対応できないことがある。
○不安な気持ちが被災により増幅され、ふだん以上に感情のコントロールができなくなることがある。

また、教師が学校における組織体制や安全に関する教育の重要性と緊急性を十分認識し、安全に関する自らの意識や対応能力、安全に関する教育に対する指導力を一層高めるためには、最新の情報を取り入れながら、学校や地域の実態に即した実践的な校内外での研修を行うことが重要となる。このことについては、道立行政法人教職員支援機構(NITS)から、校内研修等で用いることに有効な学校安全に関する講義動画が多数提供されているので、ぜひとも活用していただきたい。


・ 生活安全:校内研修シリーズ No.114|NITS 独立行政法人教職員支援機構
学校安全(総論):校内研修シリーズ No.116|NITS 独立行政法人教職員支援機構 

学校の抱える安全上の課題は、年々複雑化・多様化しており、学校がそれら全てを担うことは困難な状況にある。また、事件・事故、自然災害などは、子供が学校にいる時間帯だけではなく、家庭や地域にいる間に発生する可能性が極めて高いことも考えられる。これらのことから、学校は、日頃から家庭・地域・関係機関と連携・協働して、安全に関する教育に取り組んでいくことが大切となる。
家庭や地域と連携・協働する例としては、保護者参観日やPTA総会など保護者や地域住民が来校する機会を活用し、安全に関する授業を実施したり、避難訓練や保護者引渡し訓練を実施したりすることなどが考えられる。また、インターネットの利用に起因した被害の防止を含め、防犯・交通安全・防災に関する情報提供や事故等の発生時に求められる対応等について、保護者や地域住民への説明等を行うことも考えられる。平素から学校が、家庭や地域との関係づくりに取り組むことは、非常時の子供の命や安全を守ることにつながっていく。学校が家庭や地域と目標を共有しながら、それぞれの責任と役割を分担しつつ、安全に関する教育の充実に努めていただきたい。学校が家庭や地域と目標を共有しながら、それぞれの責任と役割を分担しつつ、安全に関する教育の充実に努めていただきたい。
また、関係機関と連携する例としては、安全に関する授業等において、災害ボランティアをゲストティーチャーとして活用し、地域安全に対する思いや願いを直接聞き取ることなどが考えられる。特に、自然災害後の被災地の様子や被災した方々の状況を知り、復興支援活動に関する話を聞くことにより、子供は、被災時にはどんなことに困ったのか、そのために自分たちは今、何をしなければならないのかなど、深く今後の取組等を考えることができ、地域で取り組んでいる防犯・防災活動などの状況を理解することにもつながっていく。
このように、学校は、家庭・地域・関係機関との連携・協働の取組を踏まえつつ、地域人材や外部専門家等を活用した学校安全に係る人的体制の充実を一層進めていくことが必要である。そのためには、現在作成している学校安全計画や危機管理マニュアルなどについて、保護者や地域住民、関係機関等からの意見・助言を基に更なる改善に努めるとともに、学校安全計画や危機管理マニュアルを周知して協力体制を整備すること、学校の安全に関する教育、安全管理の方針を具体的に共有することが重要となる。

今年は関東大震災から100年の節目ともなるが、本連載の総説や事例を通して、障害のある子供一人一人の安全に関する資質・能力を育成するための今後の指導・支援の充実につなげていただきたい。

堀之内恵司(ほりのうち・けいし)
文部科学省初等中等教育局特別支援教育課特別支援教育調査官

*本稿は、文部科学省特別支援教育課編集の季刊誌『季刊特別支援教育91号』8-13頁に所収したものを一部修正しています。掲載をご快諾いただきました執筆者の皆さまに、この場を借りて御礼を申し上げます。

令和6年(2024年)能登半島地震に係る災害義援金の受付について:石川県Webサイト