特集 ちえをもちよる vol.6 安全に関する教育 危険を予測し、回避する能力を育成する安全教育の充実について ―指導参考資料集「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育の展開」―

執筆者: 木下史子

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特集「ちえをもちよる」第6回は、文部科学省特別支援教育課編集の季刊誌『特別支援教育』91号(2023年秋号)の特集「学校における安全に関する教育」から、記事を掲載します。

令和4年3月25日、「第三次学校安全の推進に関する計画」が閣議決定しました。各学校における安全に係る取組を総合的かつ効果的に推進するため策定されたもので、令和4年度から令和8年度が計画年度となります。また、「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」という資料集も平成31年に改訂がなされ、より現状に即して各学校における実践事例が整理されています。
今回は、それらの内容を踏まえ、安全教育の考え方や教育課程上の位置付け、取組事例などを紹介します。
教育に携わる皆さまが、今できることを考えたり、不測の事態に備えたりする際の一助になればと思います。

我が国は、近い将来に発生が懸念されている首都直下地震や南海トラフ巨大地震をはじめ、激甚化・頻発化する気象災害、火山災害などの計り知れない自然災害のリスクに直面している。また、学校における活動中の事故や登下校中における事件・事故、SNSの利用による犯罪など子供の安全を脅かす様々な事案も次々と顕在化している。

このような状況において、令和4年3月25日に、「第3次学校安全の推進に関する計画」(以下、「3次計画」という)が閣議決定した。3次計画は、学校保健安全法に基づき、各学校における安全に係る取組を総合的かつ効果的に推進するため策定されたもので、令和4年度から令和8年度が計画年度である。
3次計画に基づき、安全で安心な学校環境の整備や、組織的な取組を一層充実させるとともに、安全教育を通じ、児童生徒等に、いかなる状況下でも自らの命を守り抜き、安全で安心な生活や社会を実現するために自ら適切に判断し主体的に行動する態度の育成を図ることなどが重点的な項目として示されている。学校における安全に関する教育の充実については、次のようなことが記載されている。

〇児童生徒等が危険を予測し、回避する能力を育成する安全教育の充実、指導時間の確保、学校における教育手法の改善

〇地域の災害リスクを踏まえた実践的な防災教育の充実、関係機関(消防団等)との連携の強化

〇幼児期、特別支援学校における安全教育の好事例等の収集

〇ネット上の有害情報対策(SNSに起因する被害)、性犯罪・性暴力対策(生命(いのち)の安全教育)など、現代的課題に関する教育内容について学校安全計画への位置付けを推進

(1) 資料集について
各学校における安全教育が効果的に行われるために、ねらい、重点、内容、進め方などについて明らかにし、安全教育の取組の質の向上を図るための参考資料として、学習指導要領及び「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」(平成31年3月、以下「資料集」という)に基づく安全教育の実践事例を収集整理し作成された。

(2) 安全教育について
安全教育の目標は、日常生活全般における安全確保のために必要な事項を実践的に理解し、自他の生命尊重を基盤として、生涯を通じて安全な生活を送る基礎を培うとともに、進んで安全で安心な社会づくりに参加し貢献できる資質・能力の育成を次のとおり目指すことである。

【安全に関する資質・能力】

○様々な自然災害や事件・事故等の危険性、安全で安心な社会づくりの意義を理解し、安全な生活を実現するために必要な知識・技能を身に付けていること。(知識及び技能)

○自らの安全の状況を適切に評価するとともに、必要な情報を収集し、安全な生活を実現するために何が必要かを考え、適切に意思決定し、行動するために必要な力を身に付けていること。(思考力、判断力、表現力等)

○安全に関する様々な課題に関心を持ち、主体的に自他の安全な生活を実現しようとしたり、安全で安心な社会づくりに貢献しようとしたりする態度を身に付けていること。(学びに向かう力、人間性等)

各学校においては、これを踏まえ、児童生徒等や学校、地域の実態及び児童生徒等の発達の段階を考慮して学校の特色を生かした目標や指導の重点を計画し、教育課程を編成・実施していくことが重要である。その中で、日常生活において、危険な状況を適切に判断し、回避するために最善を尽くそうとする「主体的に行動する態度」を育成するとともに、危険に際して自らの命を守り抜くための「自助」、自らが進んで安全で安心な社会づくりに参加し、貢献できる力を身に付ける「共助、公助」の視点からの安全教育を推進することが重要である。
特別支援学校及び特別支援学級においては、児童生徒等の障害の状態や特性及び発達の程度等、更に地域の実態等に応じて、安全に関する資質・能力を育成することを目指した安全教育が期待される。

(3)教育課程における安全教育
学校における安全教育では、児童生徒等が安全に関する資質・能力を教科等横断的な視点で確実に育むことができるよう、学校、地域の実態及び児童の実情に応じて、学校の特色を生かした目標や指導の重点を計画し、各教科等の安全に関する内容のつながりを整理し教育課程を編成することが重要である。
また、児童生徒等の意識の変容などの教育課程の実施状況に関する各種データの把握や分析を通じて安全教育に関する取組状況を把握・検証し、その結果を教育課程の改善に生かしていかなければならない。カリキュラム・マネジメントの確立を通して、系統的・体系的で実践的な安全教育を推進することが求められる。

【教育課程編成上の留意点】

・地域の特性や児童生徒等の実態・発達の段階に応じて計画する
・児童生徒等に育成を図る安全に関する資質・能力を明確にする
・自助、共助、公助の視点を取り入れる
・各教科等の特質を踏まえ、一年間指導すべき内容を関連させながら整理する
・安全教育と安全管理の関連を図る
・家庭や地域、関係機関・関係団体等と連携を図る
・校種間の連携を図る

特別支援学校においては、児童生徒等の安全に留意するために、まず一人一人の障害の状態を適切に把握することが必要であり、それには、学級担任や養護教諭をはじめとして、児童生徒等に日常的に接する教職員の継続的な観察と情報交換が必要である。また、安全教育を効果的に進めるためには、各教科及び学級活動(ホームルーム活動)、自立活動においてはもちろん、教育活動全体を通じて、組織的、計画的な取組が必要であり、校内外の専門家との連携を図るなど、安全教育を推進する体制づくりが必要である。

実際の指導では、「危険防止」や「交通安全」「避難訓練」などを取り扱い、「危険防止」については、危ないことや危険な場所について知るとともに、場所や状況に応じて、自分自身を守れるように適切な行動をとること、道具の正しい使い方を知ることなどが指導内容となる。指導に当たっては、日常の実際の生活の中で、危険な場所や状況に近付かないことや回避することなどをきめ細かく指導することが大切である。「交通安全」については、安全に気を付けながら道路を横断すること、信号や標識の意味を知って守ることなどが指導内容となる。指導に当たっては、交通安全は日常の社会生活を送る上での基本的な事項であり、直接、生命に関わることであるため、児童の実態を的確に把握し、登下校の場だけでなく、その状況に合わせて指導する必要がある。そのほか、避難訓練の重要性を知るとともに、教師等の指示に従って避難することなどを身に付けて、災害時に適切な行動ができるようにすることなども取り扱う必要がある。

(4)教育効果を高める工夫
安全教育の効果を高めるため、危険予測の学習、視聴覚教材、デジタル教材、タブレット端末の活用、地域や校内の安全マップづくり、学外の専門家による指導、避難訓練や応急手当のような実習、誘拐や傷害などの犯罪から身を守るためにロールプレイングを導入するなど様々な手法を適宜取り入れることが大切である。また、児童生徒等が安全上の課題について、自ら考え主体的な行動につながるような工夫が必要である。

(5)安全教育の評価
安全教育の評価については、目標がどの程度達成されたか、その状況を把握するとともに、教育内容や方法における問題点を明らかにし、改善につなげていくことが重要である。また評価する方法としては、質問紙法、面接法、観察法などが用いられるが、ポートフォリオや作文、レポート、作品(成果物)、話合いなど多様な活動を評価の対象とすることもできる。それぞれの評価方法には短所・長所があることを理解し、いくつかの方法を併用して、多面的・多角的な評価を進めていくことが大切である。

(6)具体的な取組事例
本資料には、取組事例として幼稚園3例、小学校11例、中学校8例、高等学校3例、特別支援学校・学級7例を紹介している。特別支援教育の事例では、学校安全の領域(生活安全・災害安全・交通安全)、教科・単元、対象障害種が単元名と一緒に表記されている。

【地震だ!津波だ!命を守ろう‼】

〇領域 災害安全

〇対象障害種 知的障害

〇教科・単元
生活、国語、算数、道徳、自立活動

〇単元の目標
・自立活動 2心理的な安定⑵ 状況の理解と変化への対応に関すること
※大津波警報を聞いても、教師の指示を聞いて、避難ができる
・生活、国語、算数、道徳は下記参照

〇指導計画
・津波を知ろう。津波から逃げる方法を知ろう。(1時間)
・津波から逃げる方法を実際にやってみよう。(3時間)
・振り返りをしよう。(1時間)

〇評価計画
・各教科等における指導のねらいについて評価をしていく。
・児童の自己評価を含めて、活動の様子を撮影しておき、振り返りをすることで、ねらいについての評価がしやすくなる。
・面談等で保護者に様子を見てもらい、評価を共有することもできる。

津波の大きさや、繰り返し押し寄せることが分かるようにする。
津波の大きさや、繰り返し押し寄せることが分かるようにする。

未来ある子供たちには、安全教育を通して、いかなる状況下でも命を守り抜き、事故や災害等を乗り越え次代の社会を形成していくことのできる力を身に付けていくことが必要である。そのためには、教育に携わる者が、事故や災害を自分事として捉え、安全教育の必要性を認識することが大切である。今回、紹介した資料集が各学校園における安全教育の推進に寄与する一助となることを期待する。


第3次学校安全の推進に関する計画

木下史子(きのした・ふみこ)
文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課安全教育調査官

*本稿は、文部科学省特別支援教育課編集の季刊誌『季刊特別支援教育91号』14-17頁に所収したものを一部修正しています。掲載をご快諾いただきました執筆者の皆さまに、この場を借りて御礼を申し上げます。

令和6年(2024年)能登半島地震に係る災害義援金の受付について:石川県Webサイト