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月刊 理科の教育2025年3月号

ISBN: 4910093130354

一般社団法人日本理科教育学会/編

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特集:サイエンスコミュニケーションと理科教育の未来

未来を創るサイエンスコミュニケーションと科学技術教育の連携

 現代社会において、科学技術は日進月歩で進化しています。この進化を社会全体で共有し、次世代を担う子どもたちに理解を促し、新たな価値を創出する基礎を築くことは、国の未来を形づくる上でも、科学技術立国を維持し続ける上でも不可欠と言えます。我が国では、アウトリーチ活動を科学技術政策の重要な柱と位置付け、大学を含む研究機関が積極的に取り組んでいます。これらの機関では、最先端の研究成果や科学技術イノベーションを小学生、中学生、高校生に向けてわかりやすく伝える努力を重ねています。
 しかし、内閣府の世論調査(2017)によると、科学技術への関心はある程度高いものの、実際に科学者や技術者の話を聞くことについては消極的な傾向が見られます。また、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査(2019)では、国民の科学技術に対する理解度に課題があることも指摘されており、創造性を育てるためにはさらなる工夫が必要と言えるでしょう。一方で、例えば環境問題、少子高齢化、防災減災、感染症対策、食糧問題など多くの社会問題の解決に科学技術が果たす役割には大きな期待が寄せられており、これらの政策決定においても国民の関与が求められているのです。
 これらの現状を踏まえると、国民全体の科学技術への理解を深めるためには、大学や研究機関と学校教育とのさらなる連携強化が急務であると考えられます。アウトリーチ活動は、研究者と国民との双方向の対話を通じて、科学技術への理解を深め、信頼を築き、支持を得るための重要な手段です。具体的な取り組みとして、ある大学の研究者が行ったプロジェクトが挙げられます。このプロジェクトでは研究者が小学校を訪れ、最新のロボット技術を紹介するワークショップを開催しました。当初、子どもたちはロボットの操作に戸惑い、失敗を繰り返しましたが、研究者が失敗を恐れずに挑戦する姿勢を見せることで次第に自信をもち、積極的に取り組むようになりました。この過程で、子どもたちは科学技術の面白さを実感し、学びに対する意欲を高めたのです。一方で、別の事例では研究者が中学校で行った科学実験教室があります。この教室では、研究者が自らの研究について、実験の重要性とその過程を説明しましたが、生徒たちの理解が進まず、期待した成果を得られませんでした。生徒たちは、 研究者の説明が専門的すぎて理解できず、実験に対する興味を失ってしまったのです。この事例は、科学技術の内容を伝える際に、相手の理解度に合わせたコミュニケーションがいかに重要であるかを示しています。
 これらの取り組みを通じて、教員もまた新たな視点を得ることができました。研究者との交流を通じて、教員は科学技術の最新動向を学び、それを授業に取り入れることで、より実践的で興味深い授業を展開することができるようになったのです。これにより、教員自身も学びの意義を再認識するとともに、探究型の授業に自信がもてるようになり、生徒と共に成長する姿勢が見られました。また、サイエンスコミュニケーションの重要性を直接知る機会にもつながりました。
 子どもたちの活動の様子と心の変化も見逃せません。例えば、ロボットワークショップに参加した小学生の一人は、最初のうちはロボットの操作に苦戦していましたが、研究者のサポートを受けながら次第に自信をつけ、最終的には自分でプログラムを組めるようになりました。この経験を通じて、彼は科学技術に対する興味を深め、将来の夢としてエンジニアを目指すようになったのです。
 このように、アウトリーチ活動は、研究者と児童生徒、教員との間に新たな学びの場を提供し、科学技術への理解と興味を深める上で重要な役割を果たしています。しかし、一過性のイベントで終わらせず、継続的な取り組みが重要です。今後も、具体的な取り組みを通じて、科学技術教育の充実を図り、次世代を担う子どもたちの成長を支えていくことが求められます。 本特集では、政策的な視点から、実際にアウトリーチ活動を実施している研究者、活動に参加経験のある小・中・高等学校の先生方の知見を広く共有することを目的としています。

(『理科の教育』編集委員会)