算数の学び方 ――個別最適な学びと協働的な学びを実現するために

算数の学び方 ――個別最適な学びと協働的な学びを実現するために - 東洋館出版社

授業者

大野桂
筑波大学附属小学校 教諭。
私立高等学校,東京都公立中学校など経て,現職。教科書「小学算数」編集委員(教育出版)。近著に『すべての子どもの学力に応じる算数一斉授業のつくり方』(東洋館出版社)。

森本隆史
筑波大学附属小学校 教諭。
山口県公立小学校教諭,山口大学教育学部附属山口小学校教諭を経て,現職。教科書『みんなと学ぶ小学校算数』(学校図書)編集委員。近著に、『算数授業を子どもと創る』(東洋館出版社)。

子どもの能力を伸ばすためには、子どもが自ら考え学びを広げていくことが肝要である。
小学校算数の授業においても「協働的な学び」から「個の学び」を子どもが行なえるように導くことが重要であるが、具体的に教師ができることとは何だろうか?
『算数授業研究』GGゼミナール第17回のテーマ、「算数の学び方 ――個別最適な学びと協働的な学びを実現するために」をまとめていく。

子どもが自ら算数の学びを広げるために教師にできること

前半は森本先生が、協働的な(一斉授業の)学びを行なった後に、(子ども一人ひとりが探究する)個の学びを行い、再び協働的な学びに戻していくことが学習において理想的と語っている。
一方で、いきなり子どもが協働的な学びから個の学びを行なうのは難しいとも語っており、教師の授業づくりが重要となる。

計算が得意な子と苦手な子がいることを意識

2年生のくり下がりのひき算を例で考える。
「108から12を引き続けてみよう」という問題を出した時に起きることとは?

1. 早く計算できる子どもと計算に時間がかかる子どもに分かれてしまう
2. 早くできた子どもは他の問題もしたくなる、「どうしたらいいのか」と聞く子どもも出てくる
3. 他の問題を教師が準備する必要が出てくる

自ら考えて学びを行なうのに小学2年生の段階ではまだ難しいため、最初の内は計算の早い子どもに対して他の問題を教師が用意して出してあげることが大切。
ただし、用意された問題を単純に解いているだけでは自主的な学びには繋がらない。
出す問題にも工夫が必要になってくる。

算数の問題がおもしろいと感じられる工夫

上記と同じように「117から13を引き続ける」「126から14を引き続ける」など、すべて最後に0になる問題を出してみると、子どもから「すっきりする」「おもしろい」「もっと出してほしい」といった意見が多かったという。
計算の早い子どもと計算が苦手な子ども、どちらにもおもしろいと感じられる問題を出す工夫が必要。
解いた後におもしろいと感じられる問題をいくつか出すことで、子どもの探究心を刺激することが重要となる。

子どもが自分で問題を作れるようにする

教師が問題を用意し続けるだけでは、自ら学びを広げていることにはならない。
では、子どもが自分で考え問題を作れるようになるには?

「108から12を引き続ける」「117から13を引き続ける」「126から14を引き続ける」という問題は最後に0になるが、逆に足すとどうなるのか?
108に12を足すと120に、117に13を足すと130になり、126に14を足すと140になるといった具合に法則がある。

一の位が0になる法則を子どもに気付かせることで、「0になる問題を自分でも作れるのでは?」と思わせることができる。

個別最適の学びと協働的な学びについて

令和3年の中央教育審議会の答申で目指すべき新しい時代の学校教育の姿として、「すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと協働的な学びの実現」が提言された。
これを元に教師が具体的に何を行なうべきか、考えを促している。

指導の個別化と学習の個性化

・「指導の個別化」子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うこと
・「学習の個性化」教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子供自身が学習が最適となるよう調整すること

個別最適や学習の個性化が学びを広げるために重要であるとしても具体的に何をすれば良いのか?
子どもに教師ができることを考えていこう。

教師自身も考え学ぶことが大切

子どもが自ら学習を広げるためには、教師自身も発展や探究を楽しんで行なうことが重要になる。
教師が積極的に学ぶ姿勢は授業の中で子どもにもしっかり伝わっていく。

例に出した「108から12を引き続ける」といった問題も、逆の発想を教師が行なってみせることが大切。
引き続けるのではなく、逆に12を足し続けてみるとどうなるのか?
数を変えること、引き算でやったことを足し算でやってみるなど、考え方を提示してあげることで、他の問題でも子どもがやってみたいと思ってもらうように導くことができる。

教師自身も授業で子どもに教えながら、引き算を足し算に変えて考えることや数や桁を変えて考えて計算する楽しさを感じていくことが大切。
子どもに色んな学び方があり、その楽しさを教えることで、子どもが「一人で学ぶこともできるんだ」と実感させることが可能である。

友達と学ぶことで相乗効果を得る

別の学校が行なっていることを参考にすることは良いが、形式だけを真似ても意味がない。
自立して学習を進めていく子どもに育てるためには、やはり日々の授業が大切である。

日々の授業から、子どもはしっかり「学び方」を学んでいる。
どんなふうに学んだらいいのか、教師も経験を積み、引き出しをたくさん持っておくことが重要。
今まで教師は子どもが自分で動き出すようになるために様々な工夫を行なってきたが、今後はさらに広がりのある問題を意識して授業づくりを行なうと良いのではないだろうか。

それに加えて、子ども同士の繋がりもとても大切だ。
友達から別の見え方や考え方を共有、吸収することで、今まで見えていなかったことが見えるようになる。
考え方が違っていたことを意識でき、仲間から学んだことを自分の学びに活かすことが可能になってくる。

日々の授業が教師主導で行なっていると、子どもが自ら発展し探究するわけがない。
日々の授業を変えることで子どもの学び方も自ずと変わっていく。

子どもの自主的な学びの為に具体的にはどんなことができる?

日々の授業を変えて子どもの自主的な学びに発展させるために何ができるのか?
例として「正方形の面積は何㎠?」という問題を挙げていた。

対角線の長さがはっきりわかっている場合、「対角線×対角線÷2」の公式に当てはめることで答えが出せる簡単な問題。
対角線の長さの値を変えることで問題を変えることはできるが、公式に当てはめているだけでは子どもの見方や考え方はあまり広がらない。

そこで正方形を2個分にして、2つの正方形を合わせた対角線の長さしかわからない場合に1つ分の正方形をどう求めるのか、といった複雑な問題にして考えさせる。
一見複雑そうな問題で提示されている情報が少ない場合でも、さらに正方形を増やして情報量を増やして考えることもできる。
図形を増やすことで情報も増え、公式に当てはめることができる数字も浮かび上がっていく。

内からの学びを引き出すためには公式に当てはめるだけでなく、こういった見え方や考え方が広がる経験と、活用できる経験が大切になってくる。

探究的な算数の学び方

後半は大野先生の「自ら学びを進めることができるこどもに育てる」ことについてのお話。
算数に限らず問題に直面した時に道を切り開くことのできる子どもに育ってほしいと多くの人が考える。
算数の面で道を切り開ける子どもへと導くためには、まずは探究的な学びや個別最適な学びについて考えることが重要としている。

探究的な学びとは?個別最適な学びとは?

探究的な学びとは一体何だろうか?
大野先生は、一斉授業の中でそれは「他者意識」だと考える。

自分自身が何かを説明する際に「他人に伝わるか」「上手く伝えられたか」「もっと上手く伝えられるのではないか?」など、他者を意識した時に探究的な学びは生まれる。
上手く伝えるために「数値を変えてみよう」「図に置き換えてみよう」という気持ちこそ探究的な学びだと語る。

そして、その上手く伝えるための手段が、伝える側や聞く側によっても異なるのだ。
この異なりが個別最適な学びとし、個によって違う目的を的確に教師が捉え、授業を進めていくことを重要としている。
新しい問題を与えることも大事だが、「個がいま何をしているのか?」「何をしたいのか?」「個の課題は何なのか?」を的確に捉えてあげることが大事だと、大野先生は語った。

大野先生の話を受けて、森本先生が「共感」の話を提示。
共感には、「情動的共感」と「認知的共感」の2種類があり、大野先生が話している部分は「認知的共感」でもあると考える。
誰かにわかりやすく伝えるために、「図を使ってみよう」「簡単な数字で例を出した方が良いのではないか?」と考えられるように、認知的共感の部分を育てることがすごく大事だと語った。

難しい問題こそ簡単な場面を想像させる

探究的な学びの具体的な問題例として、「オセロをひっくり返して考える」「円状の土地を均等に分ける」「分数の計算」を行なった。
難しい問題を簡単な問題に置き換えて、想像することが重要とした。

できないことで長い時間躓くよりも、自分でできることに落とし込むことで、難しい問題も理解できるようになる。
「これならできる」と子どもが捉えられると次の道が開けてくる、一番簡単なことにこそ算数の本質は現れると語った。

質疑応答

最後に参加している教師達と質疑応答が行なわれた。
話の中で疑問に思ったこと、自分が担当しているクラスの課題や問題について具体的な話が展開。

閃きでわかるような子がいる時はどうしたらいい?

一斉授業の中で、閃きで問題がわかる子と気づけない子の差があることは仕方ない。
問題がわからずに困っている子がいることを、問題を終えた子に「この子は何故問題がわからないのか」「何故自分はわかったのか」を考えてもらえる授業展開が必要。
一斉授業では一緒に学んでいくことが大切で、「この問題を終えました」だけで終わるのではなく、気づいたその次に何をするかを重視してあげると良い。

その子にとっての「簡単な場面」というのが分からない。1年生にとっての簡単な場面とは?

子どもにどんな場面が簡単かを考えてもらうことで、子ども本人にも気づいてもらえる。
例えば、1年生の授業で行われる3口の計算。
3つの数字をどの順番に足すと一番簡単に計算できるか、同時に繰り上がりについても学べるため、授業で重点的に行なってみよう。
繰り上がりが難しくても、3つの数字の中で10を作ると計算が簡単と気づかせ、子どもたちの中で共有することで「簡単な場面」を作ることができる。

(角度に関する授業で)子どもたちに面白く教えるためには

子どもに二等辺三角形の性質を問うてもおもしろいと感じてくれない。
折り紙など遊びを取り入れながら角度を意識すれば、性質も自然と理解できるようになる。
二等辺三角形を作ってみようと子どもに促して、何故この作り方になったのか、作っている理由を聞いてあげよう。
作らせる過程の中で角度を意識させることが重要。

協働的学びでのタブレットの活用方法は?

タブレットでは全員の考えを共有できる点がメリット。
文字情報でなければ意見や質問を言いづらい子など、今まで意見を共有できなかったことが共有できるのがタブレットの良さなので、その点を中心に活用しよう。
ただ、すべてタブレット上でやり取りするのではなく、実際に聞きに行くなどを取り入れ、子ども同士と教師と子ども間のコミュニケーション力が希薄にならないように努めることも大事。

算数のプログラミングの授業での今後発展問題をすればいいのか、個人で正多角形を描く方が良いのかわからない

実際の授業は指導案通りにならないため、その時に必要なものを臨機応変に展開するしかない。
子どもの考えに合わせて授業を展開していくことが重要。

今回の質問であれば、せっかくプログラミングで図形を取り入れているのであれば、三角形から辺の数を徐々に増やしていき、円に近づいていくということを見せてあげるのも効果的なのではないか。

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